手塚治虫漫画選集

『手塚治虫漫画選集』は、1958年10月から1963年4月にかけて、鈴木出版より全25巻が刊行された手塚治虫の漫画作品全集です。A5判のハードカバーという、当時の全集としては標準的なサイズで、多くの読者に親しまれました。

本全集の特徴は、収録されている作品にあります。同時期に光文社から刊行されていた『手塚治虫漫画全集』が『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』といった人気長編作品を主に収録していたのに対し、『手塚治虫漫画選集』は、比較的短編から中編の作品を多く収録している点が大きく異なります。そのため、長編作品では味わえない、様々なテーマや作風を手塚治虫がどのように表現していたのかを垣間見ることができる貴重な資料となっています。

また、『手塚治虫漫画選集』は単に既刊作品を収録しただけの全集ではありません。後年刊行された講談社版『手塚治虫漫画全集』と同様に、コマ割りの変更や加筆修正が加えられている点が注目に値します。これは、単なる再録ではなく、当時の編集者の意図や、手塚治虫自身の作品への更なるこだわりを感じさせる部分と言えるでしょう。当時としては斬新な編集方針だったと考えられ、現代の読者にとっても、新たな発見や驚きのある作品体験を提供してくれるはずです。

さらに重要な点は、『手塚治虫漫画選集』と光文社版『手塚治虫漫画全集』との間で、収録作品に重複がないという点です。これは、両全集を揃えることで、手塚治虫作品の世界をより多角的に、そして網羅的に楽しむことができることを意味します。それぞれの全集が、異なる魅力と視点で手塚治虫作品を紹介していると言えるでしょう。

『手塚治虫漫画選集』は、単なる漫画全集を超えた、手塚治虫作品を理解するための重要な資料と言えるでしょう。短編・中編作品に焦点を当てた構成、そして編集上の工夫は、現代の読者にとっても、新たな発見と感動を提供してくれるはずです。手塚治虫作品を深く理解したい、あるいは新たな魅力を発見したいという読者にとって、必携の一冊と言えるでしょう。全25巻というボリューム感も、作品世界への没入感を高める要因となっています。

本稿の作成にあたり、『手塚治虫全史　その素顔と業績』（1998年8月10日、秋田書店刊）を参考にさせていただきました。

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