手塚粲

手塚粲：会社員であり、写真家であり、手塚治虫の父

手塚粲(1900-1986)は、日本の会社員であり、アマチュア写真家として知られています。世界的漫画家、手塚治虫の父であるという点でも広く知られています。明治33年東京に生まれ、司法官であった父・手塚太郎の影響もあり、中央大学法学部を卒業後、住友倉庫に入社。その後、住友伸銅鋼管（後の住友金属工業）へ異動し、終生そこで勤務しました。

しかし、手塚の興味は会社業務だけにとどまりませんでした。彼は熱心なアマチュア写真家でもあり、写真への情熱を生涯にわたって持ち続けました。当初は東京写真研究会関西支部に所属していましたが、後に前衛的な写真家集団として知られる丹平写真倶楽部に参加します。

丹平写真倶楽部での活動は、手塚粲の才能を開花させることになります。実験的で独創的な作風は高く評価され、同倶楽部における十傑の一人として名を連ねるまでに至りました。この倶楽部での交流は、彼の人生に大きな影響を与えました。

特に注目すべきは、丹平写真倶楽部の仲間たちと行った、神戸に滞在していたユダヤ難民の撮影です。1941年、ナチス・ドイツの迫害を逃れて日本にたどり着いたユダヤ難民を、安井仲治、川崎亀太郎ら同倶楽部メンバーと共に撮影しました。この活動は、当時12歳であった手塚治虫も同行しており、その時の写真が後に雑誌に掲載されることになります。撮影された写真は「流氓ユダヤ」シリーズとして丹平展で発表され、その歴史的価値は現代においても高く評価されています。

しかし、手塚粲の写真家としての活動は、太平洋戦争の勃発によって中断を余儀なくされます。1941年、彼は召集を受け、満州国、朝鮮、フィリピン、オランダ領スマトラへと出征しました。戦地での体験は、彼のその後の人生観にも大きな影響を与えたと考えられます。1946年の復員後、彼は「手塚北風」というペンネームで再び写真活動を再開しています。

戦後、息子の手塚治虫が漫画家として成功を収めると、手塚粲は家族と共に東京に移り住みます。その経験を生かし、虫プロダクションの経理業務を支援するなど、息子の仕事にも貢献しました。社員旅行にも同行し、カメラマンを務めるなど、家族ぐるみの活動も盛んに行っていました。虫プロダクション倒産後は手塚プロダクションのスタッフとして活躍し、その人柄から、編集者やファンとの交流も深く行っていたようです。

さらに、孫の手塚眞にも写真や8ミリ映画の撮影方法を教えるなど、その技術と経験は子や孫へと受け継がれ、現代の映像クリエイターにも影響を与えました。

手塚粲は、会社員という堅実な立場を守りながらも、写真家として実験的な作品を創作し、そして家族を支えるという、多様な顔を持つ人物でした。彼の生きた時代背景、その活動、そして家族との関係性を多角的に理解することで、より深く手塚粲という人物像を理解することができるでしょう。様々な文献や資料から、彼の生涯を紐解くことで、私たちはその人生の奥深さ、そして彼が遺した足跡の大きさを改めて認識することができます。手塚治虫という偉大な漫画家の父としてだけではなく、一人の写真家、そして会社員として、手塚粲の生涯は、私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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