手紙を書く婦人と召使

手紙を書く婦人と召使

『手紙を書く婦人と召使』は、オランダの画家ヨハネス・フェルメールによって1670年から1671年の間に制作された作品で、アイルランド国立美術館に所蔵されています。この絵画は、手紙を書く女性とその女性の召使いを描いており、2人の関係性や心情を巧みに表現しています。

作品の構成と構図

この作品は、画面上に2人の人物が描かれており、特に女性の背後に待機している召使いが特徴的です。女性は優雅に座り、何かを思索しながら手紙を書いています。その手紙は恐らく、彼女の恋人あてのものでしょう。一方、召使いは女性が書き終えるのを待ちながら、腕を組み、ややじれったそうに見えます。この構図は、両者の間に微妙な距離感があることを示唆しており、召使いは女性をあまり気にかけていないようにも見えます。

視線が窓の外に向けられている召使いは、内心の苛立ちや退屈を表現していると解釈されることもあります。彼女は自らが運ぶ手紙の完成を待ち続けることに不満を抱いているのかもしれません。しかし、この解釈には異論もあり、一部の美術史家は、召使いと女性の間にある視線や微笑には、何らかの暗示が含まれていると指摘しています。二人が共謀関係にある可能性を示唆する意見も存在するのです。

フェルメール独特のモチーフ

『手紙を書く婦人と召使』には、フェルメールらしいモチーフが数多く用いられています。特に、内外を分けるタペストリーや、タイル敷きの床、窓、背景の壁にかけられた絵画などが、一目でフェルメールの作品であることを示しています。彼の初期の作品から見られるこうした要素は、特に『デルフトの眺望』や『レースを編む女』といった有名な作品でも強調されています。

盗難の歴史

1974年には『手紙を書く婦人と召使』が盗難に遭った事件があり、これはアルフレッド・ベイト男爵の邸宅で発生しました。当時、IRAのメンバーにより、複数の絵画と共にこの作品が奪われました。事件後8日目にカウンティ・コークで発見されましたが、その後1986年にも再度盗まれることとなります。

この際の盗犯はダブリンの犯罪者マーティン・カーヒルで、彼はこの絵画を含む数多くの美術品を盗み、その返還のために巨額の金を要求しましたが、結局は支払われることはありませんでした。『手紙を書く婦人と召使』は1993年にアイルランド警察のおとり捜査によって再び発見され、現在はアイルランド国立美術館に所蔵されています。

結論

『手紙を書く婦人と召使』は、その美しい描写や交流を秘めた二人の姿を通じて、17世紀オランダの中流階級の日常や心理を浮き彫りにしています。フェルメールの巧妙な技法と、作品に秘められた物語性は、今なお多くの人々に魅了し続けています。

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