批判法学

批判法学とは

批判法学（Critical Legal Studies）は、1970年代のアメリカで興隆した法学の学派及び社会運動であり、伝統的な法学に対し、批判的な視点を提供するものです。この学派の発展は、法の不確定性や裁判所における欺瞞を強調するリアリズム法学から強く影響を受けていますが、カール・マルクスやジャック・デリダなどの大陸哲学に基づいた独自の視点も取り入れています。批判法学は、単に法学の領域にとどまらず、広く社会理論に対する批判も行い、左派的な社会の形成を目指しています。

歴史的背景

第一世代

批判法学が自覚的な学派として成立したのは、1977年に開催された批判法学会議が契機でした。この会議を主導したのは、ディビッド・トゥルーベックとダンカン・ケネディという2人の研究者です。トゥルーベックは法と社会に関する研究において著名で、ケネディはベトナム戦争期における学生運動の影響を受けて、フランス留学で大陸哲学を学びました。彼らが中心となって築かれた人脈が、批判法学の基盤を形成していったのです。

法と開発研究の反省

法と社会に基づく「法と開発」研究は、1960年代にアメリカで進められましたが、そこでの経験は批判法学の発展に大きく寄与しました。トゥルーベックは、アフリカの開発支援に取り組む中でアメリカ的法制度の輸出が逆に権威主義体制を助長することを目の当たりにし、その限界を痛感します。この経験が、批判法学の形成に重要な影響を与えました。

新左翼の影響

1960年代には、世界中で若者たちによる社会運動が活発化し、アメリカもその中心地の一つでした。憲法に掲げられる自由や平等は名ばかりであり、人種差別や女性差別が蔓延する現状に対する失望感から、多くの若者が直接行動に出るようになります。そうした社会情勢の中で、ケネディの世代は法学を学び、法制度への不信が高まりました。その結果、批判法学の核心となる重要な考察が生まれました。

第二世代

1980年代中頃になると、批判法学の内部で多様な考えが現れるようになります。この変化の一因は、新たな論者が加わったことにあります。第一世代の主な敵がオールド・リベラルであったのに対し、右派的な「法と経済学」の議論も現れ、批判の対象が広がりました。また、アイデンティティ政治へのシフトも見られ、従来の白人男性中心の視点に対して女性や有色人種の視点が求められるようになりました。

第一世代の変容

このような内部の多様化は、一部の第一世代の論者にも影響を及ぼし、理論的な分裂が見られるようになります。理論のみに着目する論者と、制度全般に焦点を当てる論者との意見の相違が浮き彫りとなり、その結果、学派としての結束が弱まりました。

第三世代

今や批判法学は組織としての形式は弱体化したものの、その理論は生き続けています。フェミニズム法学や批判的人種理論などに引き継がれ、国際的にも形を変えた批判法学が誕生しています。また、批判法学の理念をどのように次世代に授けるかについて考える論者たちも少なくありません。

理論と主張

批判法学には多様な視点が存在しますが、中山竜一によると、以下の5つの要素が共通して見られます。1) 法や権利は本質的に不確定である、2) 法的実践は本来的に政治である、3) 法的原理同士は根底的に矛盾している、4) こうした矛盾はリベラル社会の抱える根本的な問題を反映している、5) リベラル・リーガリズムは法を特権化し、社会的コントロールの手段とする傾向があるが、実際は法も他の社会的実践に過ぎないという考え方です。

情報提供

批判法学に関する理解を深めるために、以下の基本文献を参考にしてください。例えば、松井茂記の「批判的法学研究の意義と課題」やデイビット・ケアリズ編の「政治としての法」などは、批判法学の基本を知るための重要な資料といえるでしょう。さらに、批判法学と他の理論との関連性を検討する文献も多く存在します。

このように、批判法学は法学の治療的な可能性を探る重要な学派であり、今後の発展が期待されます。

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