技術科教育

技術科教育について

技術科教育は、技術に関連する教育活動・内容の総称です。本稿では、主として中等教育までの技術教育、特に日本における教科「技術・家庭」の中の「技術科」に関連する理論、実践、歴史などを取り扱います。

世界人権宣言における技術教育

世界人権宣言では、教育を受ける権利の一つとして、「技術教育及び職業教育は、一般に利用できるものでなければならない（第26条1）」と定められています。これは、技術教育が全ての人々にとって重要な教育分野であることを示唆しています。

日本の技術教育

歴史

国民学校実業系科目から職業科へ

第二次世界大戦後、新制中学校発足時の技術教育は「職業」科に統合されました。これは、国民学校高等科にあった実業科の科目を引き継いだものです。1951年の学習指導要領では、「職業・家庭」科として、「栽培・飼育・漁・食品加工」、「手技工作・機械操作・製図」、「文書事務・経営記帳・計算」、「調理・衛生保育」の4分野を指導することとなりました。この時点では、技術教育は独立した教科ではなく、「工学」「農学」「家政学」が混在した状態でした。

「技術・家庭」の誕生

1958年の学習指導要領で、技術教育は「技術・家庭」科に再編されました。この時、「技術」科という名称が用いられましたが、女子は「家庭科」的な内容が主でした。技術分野と家庭分野は「生活」というキーワードで結びつけられました。

学習内容の変遷

男女別学から共修へ

1958年には、男子は技術分野、女子は家庭分野を学ぶ男女別学でしたが、1977年の学習指導要領で、男女共に両分野を学ぶこととなりました（相互乗り入れ）。1989年には完全に男女同じ内容を学ぶ共修となりました。これにより、女子が技術分野を学ぶ機会が増えた一方で、技術分野の授業時間数は実質的に減少しました。

「情報」分野の新設

1989年の学習指導要領で「情報基礎」が新設され、選択科目としてコンピュータの構造やプログラミング（BASIC）が教えられました。1998年には「情報とコンピュータ」として「コンピュータの利用」や「情報通信ネットワークの利用」が必修となり、「マルチメディアの利用」や「プログラムと計測・制御」が選択科目として加わりました。2008年の学習指導要領では、「情報に関する技術」として、「ディジタル作品の設計・製作」、「情報通信ネットワークと情報モラル」、「プログラムによる計測・制御」が必修となり、インターフェースについても触れられるようになりました。

課題

理論および実践

技術科の指導理論は、機械工学、電気工学、製図などの工学分野に加え、生物育成に関する農学を基盤としています。授業では危険を伴う作業も多く、安全確保が最重要課題です。文部省の通知に基づき、生徒への適切な指導、教員の立会い、危険な作業を生徒にさせないこと、機械の取扱説明の徹底、安全規定の遵守、実習室の安全点検が求められます。事故発生時には迅速な救護措置と学校としての適切な対応が必要です。

授業時間の大幅な削減

ユネスコは、技術教育を普通教育の重要な要素と位置づけていますが、日本では技術・家庭科の学習時間が減少傾向にあります。技術分野に限ると、1958年には男子のみ各学年105時間あった授業時間が、1977年以降は男女共修の前提で実質的に減少しました。特に、1989年以降の「ゆとり教育」の中で、授業時間数が大幅に削減されました。現行の学習指導要領では、技術科単体では、1・2年で35時間、3年で17.5時間しか時間が与えられておらず、この中で多くの内容を教える必要があり、技術教育の質を保つのが難しい状況です。

教員養成に関する課題

中学校「技術」の教員免許を取得するには、木材加工、金属加工、機械、電気、栽培、情報とコンピュータに関する科目を履修する必要があります。また、技術科の指導法も学ぶ必要があります。技術科の教員免許を取得できる大学は、2014年時点で全国に64大学と限られており、地域によっては不足している現状があります。

「技術」免許所有者の不足

技術科の免許外教員が配置されている学校が11%も存在するという調査結果があります。免許外教員が行う授業では、電気、機械、金属加工、栽培、プログラム制御などが教育課程に含まれていることが少ないです。また、技術科教員の採用も少なく、非常勤講師の登用で対応していますが、臨時免許で対応している場合もあるため、技術科免許所有者の確保が課題となっています。

各国の技術教育

諸外国では、初等教育から中等教育にかけて一貫して技術教育が行われていることが多いです。

アメリカ

アメリカでは、小学校で「テクノロジー」の授業が実施され、中学校では必修教科とされています。高等学校では、「テクノロジー」や「産業テクノロジー」の名称で多様な形態の技術教育が行われています。1980年代には「産業科」から「テクノロジー」への転換が進み、「工業関係企業の経営活動」、「コンピュータなどの技術体系」、「キャリア教育」を基軸とした教育課程が編成されています。初等教育では工作活動、中学校では各分野を学び、高等学校では専門的な学習が進められます。2000年には「技術リテラシーのスタンダード」が策定されました。

イギリス

イギリスでは、5歳から16歳までの義務教育で必修教科「テクノロジー」が設けられています。14歳までは共通の内容を履修し、その後は「テクノロジー」、「設計と実現」、「設計と伝達」から選択します。技術分野を総合的に学び、設計プロセスを重視した教育が展開されています。

フランス

フランスでは、初等学校で「科学・テクノロジー」が週2〜3時間、中学校では「テクノロジー」が必修科目として週2〜1.5時間、選択科目として「産業テクノロジー」が週3時間配当されています。リセ（高等学校）でも選択必修や選択科目として「テクノロジー」が置かれています。フランスの「テクノロジー」は企業経営活動を基調とし、幅広い分野から教育課程が編成されています。

スウェーデン

スウェーデンでは、9年制の義務学校で「スロイド」（工作・加工）と「科学」の中の「技術」で技術教育が行われています。「スロイド」では「木材加工」「金属加工」「布加工」を学び、「技術」では社会のテクノロジーを学びます。高等学校でも選択科目として技術教育が実施されます。

ドイツ

ドイツでは、基礎学校（小学校）で「工作」と「事実教授」の中で技術教育が行われています。中等教育では、「工作」、「技術」、または「労働科」の中に技術が含まれています。技術の内容は州によって異なり、伝統的な技術から「情報と通信」、「生産の自動化」などの新しい分野まで幅広くカバーされています。

ロシア

ロシアでは、「テクノロジー」が必修教科として小学校から高等学校まで一貫して実施されています。

台湾

台湾では、小学校の工作科で「実用する能力」を、中学校の「生活科技」で「技術やその影響を理解すること、工業製品や材料を利用すること」を重視しています。

まとめ

技術科教育は、社会の変化に対応し、生徒が将来社会で活躍するための重要な基盤となる教育です。日本では、授業時間数の減少や教員不足などの課題がありますが、諸外国の事例も参考にしながら、より質の高い技術教育を目指していく必要があります。

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