押し葉標本

押し葉標本とは

押し葉標本（おしばひょうほん）とは、植物を乾燥させ、台紙に貼り付けて保存する標本です。正式には腊葉標本（さくようひょうほん）と呼ばれ、学術的な研究に用いられます。押し花と似ていますが、こちらは観賞用ではなく、植物の分類や研究のために作られます。

押し葉標本の意義

植物は乾燥させることで外形を保つことができます。押し葉標本は、植物を平らに広げて乾燥させることで、保管や観察を容易にするための古くから用いられてきた手法です。丁寧に扱えば、微細な毛などの形質も失われず、植物をそのままの状態で観察できます。花びらなどの柔らかい部分は、乾燥によってしわが寄ることがありますが、必要に応じて水で戻すことも可能です。防虫剤や適切な湿度管理を行えば、100年以上も保存することができます。

また、押し葉標本からDNAを抽出することも可能で、分子系統学や分子生物学的研究にも活用されています。植物の分類においては必要不可欠な資料であり、学名が付いている種や変種には、必ずその根拠となる標本（タイプ標本）が存在します。

標本を蓄積することで、1種と考えられていたものが2種に分けられたり、逆に2種が1種に統合されたりすることがあります。標本は、植物の分類だけでなく、生物多様性を理解する上でも非常に重要な役割を果たしています。

押し葉標本の欠点

押し葉標本には、色の変化や大きさの制限、立体構造が失われるといった欠点もあります。乾燥の過程で、葉の色が褐色に変化したり、退色したりすることがあります。また、標本の大きさは、挟み紙のサイズに制限されます。さらに、本来の立体的な構造が平面的になってしまうため、観察が困難になる場合もあります。

これらの欠点は、液浸標本や標本ラベルに生時の色を記録することで補うことができます。近年では、デジタルカメラの普及により、写真で済ませる人も増えていますが、分類学的な研究には、押し葉標本が不可欠です。

押し葉標本の作り方

1. 採集

植物標本を作るためには、まず植物を採集します。小型の植物は全体を、樹木の場合は枝の一部を採集します。花、葉、果実など、重要な構造を多く含む部分を選ぶように心がけましょう。特に花は最も重要な形質であり、花も実も付いていない標本は、分類学的な価値が低くなります。

2. 整形

採集した植物は、新聞紙に挟んで乾燥させます。新聞紙の大きさに合わせて、植物を切ったり、折り曲げたりします。新聞紙二つ折りが標準的なサイズです。

3. 新聞紙に挟む

植物を新聞紙の間に挟み、はみ出さないようにします。新聞紙に採集日時、種名、採集者名、採集地などのデータを記入するか、ラベルを同封します。採集地データは標本にとって非常に重要です。

4. 吸い取り紙の準備

標本を挟んだ新聞紙の上に吸い取り紙を重ね、さらに新聞紙を重ねます。これを繰り返して標本を挟んだ新聞紙と吸い取り紙を交互に積み重ねます。専用の吸い取り紙がない場合は、新聞紙で代用できます。

5. 重しを乗せる

積み重ねた標本の上に板を置き、重しを乗せます。重しは重いほど良いとされています。重しが軽いと、標本の縮みが大きくなったり、破損しやすくなります。

6. 吸い取り紙の交換

乾燥が進むにつれて、吸い取り紙を交換します。最初は頻繁に交換し、その後は間隔を空けて交換します。吸い取り紙をよく乾かせば、乾燥が早まります。乾燥時間は、気候や植物の種類によって異なります。

7. 台紙に貼る

完全に乾燥した標本を台紙に貼り付けます。植物を固定するには、アラビアゴムを塗ったテープを使います。太い枝などは糸で縫い付けます。種子などは紙袋に入れて添付します。ラベルには、植物の種名、分類上の位置、採集年月日、場所、採集者などの情報を記入し、台紙の右下に貼ります。

乾燥の工夫

乾燥には時間がかかるため、乾燥機が使われることもあります。乾燥機は、電熱器や電熱線、白熱電球などを利用して、標本を温風で乾燥させる装置です。乾燥機を使うと、短時間で乾燥させることができますが、葉がよれてしまったり、変色してしまうこともあります。

標本にしにくいものへの対処

大きすぎる植物

大きすぎる植物は、折り曲げたり、切ったりして、標本にします。また、部分的にカットすることもあります。ただし、できるだけ全体の形が分かるように配慮することが重要です。

厚みがある植物

厚みがある植物は、スライスしたり、液浸標本にしたりします。

柔らかい植物

柔らかすぎる植物は、台紙に広げてから、新聞紙に挟んで乾燥させます。

乾きにくい植物

多肉[[植物]]や着生植物など、乾きにくい植物は、煮沸やホルマリン処理をしてから乾燥させます。

葉が落ちやすい植物

葉が落ちやすい植物は、熱湯や薬剤で処理することで、葉が落ちるのを防ぐことができます。

キノコ

キノコは、シート乾燥材を使って乾燥させますが、乾燥剤と一緒に密閉容器に入れて保存しないと、長期保存はできません。

保存

押し葉標本は、乾燥状態を保ち、微小昆虫の侵入を防ぐことで、長期間保存することができます。ヒ素を台紙面に塗ったり、定期的に燻蒸することも効果的です。

海藻の押し葉

海藻の標本も、陸上植物と同様に作ります。ただし、塩抜きを十分に行い、厚手の吸い取り紙を使う必要があります。また、海藻は組織が柔らかいため、台紙に広げた上から、さらしの木綿布をかぶせて圧搾します。

海藻は陸上植物よりも情報が失われやすいため、液浸標本やプレパラート標本、グリセリンを浸透させたなめし皮状の標本と併用することが望ましいです。また、教材用や観賞用の目的で作成した海藻押し葉標本は、ラミネート加工を施すことでより破損しがたい状態での保存が可能です。

近年では、海藻の美しさを楽しむ文化活動としても、海藻押し葉が注目されています。

新聞紙

標本を挟んだ新聞紙は、年月を経て史料としての価値を見出されることもあります。

まとめ

押し葉標本は、植物研究に欠かせない貴重な資料です。正しい方法で作成し、適切に保存すれば、何十年も植物の姿を記録し続けることができます。

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