拉致講義

拉致講義についての詳細

拉致講義（らちこうぎ）とは、1991年11月に関西大学の講師李英和が北朝鮮の社会科学院の教官から受けた講義を指します。この講義では、北朝鮮による日本人拉致事件の背景や実行方法について詳細に語られました。これは日本ではまだ広く知られていなかった拉致問題に関する重要な証言とされています。

李英和の平壌留学

李英和は1991年4月、北朝鮮に留学することになりました。彼は在日朝鮮人3世の関西大学の講師であり、祖国の経済動向を直に体感したいという思いから留学を希望したのです。留学の準備には多くの手続きが必要で、特に日本への再入国許可の取得は複雑を極めました。しかし、約半年の努力の後、ようやく許可が下りることになりました。

歴史的背景としては、1988年のソウルオリンピック後、北朝鮮は日本との国交樹立を期待していました。この状況下で、李英和の留学は北朝鮮側にとっての国際的なイメージ向上の一環でもありました。

留学中の生活

李英和の留学は当初の計画とは異なり、社会科学院での正規の教育を受けることはできませんでした。彼は主にホテルで自習する生活を強いられ、教官も限られた状況でしか会うことができませんでした。また、図書資料の閲覧も制限され、自らの調査活動が阻まれました。このような環境の中で、彼は北朝鮮の厳しい監視体制と学問の自由がないことを実感しました。

留学の初期段階では言語学習などが行われ、ある程度言語を習得した後に出張講義が始まりますが、講義内容は全て北朝鮮当局の公式見解に基づくものであり、質疑応答においても自由な発言は許されませんでした。

拉致講義の内容

李英和の留学は1年の予定でしたが、8カ月で切り上げざるを得なくなります。特に、金正日の誕生日に全国民が祝辞を書く義務があったことが、彼にとって心理的負担となりました。留学計画の中でイギリス行きの査証を申請したことを理由に、北朝鮮を離れることを決意します。その際、彼は「拉致講義」と呼ばれる驚愕の内容を伝えられました。

拉致講義は、公園内を歩きながら行われ、北朝鮮の工作機関による日本人拉致の実態が語られました。準博士が述べた内容によると、日本人拉致作戦は1976年から1987年にかけて金正日の指示で実施されており、特に経済政策の失敗を背景に、韓国を標的にしたテロ作戦として実行されたとのことでした。教官は、日本語教師を養成するために日本人の誘拐が不可欠であったと説明し、日本人の拉致には性別や年齢を問わない方針があったことを明らかにしました。

このような分析から、拉致は新米工作員の潜入訓練の一環として行われており、金日成は拉致した日本人は「生かして平壌に連れ帰る」よう厳命していたといいます。これは訓練の一環として拉致が計画されていたことを示しています。

政府の反応とその後

李英和は帰国後、日本政府にこの講義の内容を伝えようとしましたが、政府側の反応は鈍く、ほとんど取り上げられることはありませんでした。その後、1997年に元工作員の証言から、本件がより広く知られるようになりました。その結果、拉致被害者家族の支援を目的に家族会が結成されるなど、拉致問題への認識が高まっていきました。

2002年には小泉純一郎首相が平壌を訪問し、日朝首脳会談が実現。この場で北朝鮮の拉致問題が初めて公式に取り上げられ、以後、解決に向けた対話の道筋が開かれました。

李英和は2020年に他界しましたが、彼の受けた「拉致講義」は、今後の拉致問題解決に向けた重要な参考になると期待されています。この問題の解決に向けて、政府は迅速かつ効果的な対応を行う責任があります。

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