拳銃と目玉焼

概要

『拳銃と目玉焼』（けんじゅうとめだまやき）は、2013年に製作された日本の長編映画です。本作は当初、監督の安田淳一による完全な自主制作としてスタートしましたが、その娯楽性の高さと自主制作の枠を超えた完成度が評価され、2014年10月17日より全国の劇場で順次公開されるという異例の経緯をたどりました。

物語の中心となる主人公は、現代社会に潜む様々な犯罪に立ち向かう中年男性。その姿は、かつてテレビ画面で活躍した昭和のヒーローたちを彷彿とさせ、特に同世代である中年男性の観客を中心に、懐かしさと共に熱い興奮を呼び覚ますエンタテインメント作品として支持されました。

制作背景

本作を手がけた安田淳一は、本業として京都市内で結婚式などの映像制作に携わっていました。しかし、中年期を迎え「本当にやりたいことに挑戦しなければ」という強い思いから、映画製作を決意します。脚本執筆から衣装の準備に至るまで、制作のあらゆる面に自ら携わり、実に3年もの歳月をかけて、低予算かつ少数精鋭のチームでこの映画を完成させました。

完成後、作品の配給や宣伝活動を行うため、安田監督は自ら「未来映画社」という会社を立ち上げます。これは、自主制作でありながら広く観客に届けたいという強い意志の表れでした。

公開と評価

完成した映画は、まず舞台となった大阪にて、2013年9月29日にヴィスタサイズでの試写会が開催されました。この試写会で集まった観客からは高い評価が寄せられ、劇場公開への期待が高まります。

2014年3月には、大阪市のシアターセブンで3週間の限定公開がスタートしました。好評につき上映期間が1週間延長されるなど、早くも大きな反響を呼びます。続いて4月には高松市のソレイユ2でも同様に3週間（うち1週間延長）上映され、同月下旬には京都市の立誠シネマでも2週間の上映が行われるなど、各地で成功を収めました。

こうした地方での盛り上がりを受け、2014年10月から11月にかけて、東京都、広島市、大阪市、横浜市、京都市、福岡市のシネマ・コンプレックスにて、一週間限定のレイトショーとして上映が実現しました。自主制作映画が全国の主要都市で商業公開されることは極めて稀であり、本作の高い評価とポテンシャルを示す出来事となりました。

劇場公開を経て、2015年9月にはDVDが発売され、全国のレンタル店での取り扱いも開始されました。これにより、さらに多くの人々に作品が届けられることになります。

また、監督の安田淳一が2024年に新作『侍タイムスリッパー』を公開した際には、その記念として再び『拳銃と目玉焼』の上映企画が持ち上がりました。同年8月には札幌市のマイクロシアター・サリサリ市場で、11月には尼崎市の塚口サンサン劇場で特別上映が行われ、公開から10年以上が経過してもなお愛される作品であることを証明しました。

あらすじ

主人公・志朗は、独身でプラモデル作りを唯一の趣味とする、ごく平凡な中年新聞配達員です。そんな彼の日常で、唯一ときめきを感じる存在が、行きつけの喫茶店「ノエル」で働くユキ。ユキが焼く目玉焼きは、志朗にとって特別なものです。

ある日、ユキから近所に現れる不審な人物への冗談めかした不安を聞かされた志朗は、それを真に受けてしまいます。ユキを守りたい一心で深夜の町に出た彼は、偶然にも「おやじ狩り」を働く不良少年グループに遭遇。勇気を振り絞って中年男性を救出したことで、ユキから「正義の味方」と褒められます。

この出来事をきっかけに、大切な人を守るための方法を模索し始めた志朗は、次第に自らの行動や存在を変えていき、やがて「ヒーロー」としての道を歩み始めることになります。

主要キャスト・スタッフ

キャスト：小野孝弘（志朗役）、沙倉ゆうの（ユキ役）、矢口恭平（哲也役）、田中弘史（坂本役）、紅萬子（喫茶「ノエル」のママ役）ほか
スタッフ：安田淳一（監督・脚本・撮影・照明・編集・コスチュームデザイン）、未来映画社（制作・配給・宣伝）ほか

自主制作ならではの情熱と創意工夫が詰まった本作は、多くの人々の心を掴み、劇場公開という成功を収めた独立映画の好例と言えるでしょう。

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