持送りアーチ

持送りアーチの概要

持送りアーチ（もちおくりアーチ）、またの名をコーベルアーチとは、古代より使用されてきた特異なアーチ構造のことを指します。この建築技法は、主に開口部や橋の上部構造を支えるために利用され、両側から点を持ち上げることでアーチが形成されます。具体的には、壁の先端から外側に石を徐々に積み上げていき、アーチの頂点では平らな石によって連結されます。これにより安定した構造を作ることが可能となります。また、持送りヴォールトはこの技法を立体的に展開したもので、建物の屋根などを支える役割を果たします。

持送りアーチは、支柱やまぐさ石を用いる伝統的な方法と比べて、重さの支え方が向上しているものの、完全に自立する構造ではありません。そのため、擬似アーチ（ぎじアーチ）とも呼ばれています。真のアーチと異なり、上部構造の重量がすべて圧縮応力に変換されるわけではなく、支えられる側の壁は重力に対抗するために厚みのある設計が求められます。そうしなければ、アーチの内側が崩れやすくなるため、しっかりとした壁と迫台を必要とします。

歴史的な事例

マヤ文明

持送りアーチは、コロンブス以前のメソアメリカにおける卓越した建築スタイルを象徴する存在であり、特にマヤ文明の遺跡でその特性が色濃く反映されています。マヤの遺跡では、持送りアーチを用いた入り口やヴォールトが数多く存在し、初期のものは形成期や先古典期にまでさかのぼります。紀元250年ごろの古典期に入ると、ペテン低地のマヤ中心地において持送りヴォールトが広く認識されることとなりました。

古代ギリシア

古代ミケーネの遺跡には、持送りアーチやヴォールトが多く見られます。特にアトレウスの宝庫はその代表例であり、またアルカディコ橋は現在でも使用されている最古の石橋の一つとされています。

アイルランド

アイルランドのニューグレンジには、紀元前3000年の設計に基づく持送りアーチを用いた羨道墳があります。この構造は墓室の屋根を支える役割を持っており、古代の建築技術を示す重要な事例です。

インド

インドでは、ムガル帝国以前の建築において、主にまぐさ石方式と持送りアーチが最も一般的でした。ニューデリーにあるSultan Ghariは、紀元1231年に建設された持送りアーチを持つ墓の一例となります。

カンボジア

カンボジアのアンコール遺跡に建設された寺院群は、9世紀から12世紀にかけて持送りアーチを採用したもので、建築技法が地域文化に根付いていたことを示しています。

結論

持送りアーチは、その独特な構造と歴史的背景から、世界各地で見られる代表的な建築技法の一つです。古代文明において広く採用されたこの技法は、時間を超えて現代の建築にも影響を与えています。

もう一度検索