捜査一課長

捜査一課長（そうさいちかちょう）

清水一行によって著された長編小説です。

概要

本作は、物語の冒頭において、現実に発生した事件から着想を得て創作されたフィクションである旨が明記されています。その内容は、ある身障害者施設を舞台に起きた痛ましい事件と、それを解決しようとする警察捜査の過程を中心に描かれます。

刊行情報

1978年2月：集英社からハードカバー版として最初に刊行されました。
1979年5月：祥伝社の新書レーベル「ノン・ノベル」として出版されました。
1983年7月：集英社文庫版として改めて世に出されました。

あらすじ

物語の発端は、神奈川県横浜市鶴見区の獅子ヶ谷町にある「光明療園」という名の障害者施設で起こります。施設の敷地内にある、しっかりと蓋が閉められていた浄化槽の中から、行方不明となっていた二人の園児の遺体が発見されるという衝撃的な出来事が発生します。この「光明療園二園児連続死亡事件」と呼ばれることになった事件の捜査指揮を執るのは、神奈川県警捜査一課長の桐原重治です。桐原は、複雑な背景を持つ施設内部、そして関係者間の人間模様に潜む真実を明らかにするため、部下たちと共に粘り強く捜査を進めていきます。

主な登場人物

物語の展開において重要な役割を担う人物たちです。

桐原重治（きりはら しげはる）：45歳。神奈川県警の捜査一課長。事件捜査の最高責任者として、冷静かつ的確な指揮で事件の真相に迫ります。
田辺悌子（たなべ ていこ）：22歳。光明療園で働く保母の一人。事件発生後、その立場や言動から捜査当局に疑念を持たれることになります。
新田文子（にった ふみこ）：12歳。光明療園に入所している知的障害を持つ園児。物語の被害者の一人として、土井衛と共に浄化槽内で遺体となって発見されます。
土井衛（どい まもる）：12歳。新田文子と同様に、光明療園の知的障害園児。文子とともに事件の犠牲者となりました。
畔上浩（あぜがみ ひろし）：26歳。光明療園の指導員。園児たちの遺体の第一発見者です。革新党系の活動に関与しているとされています。
坪田勇（つぼた いさむ）：神奈川県警捜査一課第二班の主任を務める刑事。桐原課長を補佐し、現場での捜査を指揮します。
鈴木恒雄（すずき つねお）：神奈川県警察の刑事部長。桐原の上司として捜査の全体を把握し、指示を与えます。
浪方進一（なみかた しんいち）：事件現場である鶴見区を管轄する鶴見警察署の署長です。
山本孝男（やまもと たかお）：鶴見警察署獅子ヶ谷派出所に勤務する巡査。事件の初動に関わった人物です。
須田洋一（すだ よういち）：本事件を担当する検事。司法の立場から事件の捜査に関与します。
坂井京治（さかい きょうじ）：光明療園の園長。事件発生施設の責任者として、混乱の収拾にあたります。

名誉棄損訴訟

この小説は、その物語の内容が、実際に日本で起こり世間の注目を集めた「甲山事件」を強く連想させるものであったことから、現実社会に大きな影響を与えました。特に、小説内で事件の犯人であるかのように描かれた人物像が、甲山事件で被疑者とされながらも最終的に無罪が確定した実在の人物（山田悦子氏）をモデルにしているのではないかとの見方が強く持たれました。

この状況を受け、甲山事件で無罪が確定した山田氏は、小説における描写によって自身の名誉が不当に傷つけられたこと、さらに捜査資料を基にした描写がプライバシーを侵害するものであるとして、作者である清水一行氏および出版元である集英社を相手取り、損害賠償を求める民事訴訟を起こしました。

裁判は大阪地方裁判所で行われ、1995年12月には、小説の内容が山田氏の名誉を毀損するものであると認定し、清水氏と集英社に対し、総額176万円の損害賠償金の支払いを命じる判決が言い渡されました。被告側はこの判決を不服として上訴しましたが、1999年2月に上訴が棄却され、大阪地裁の判決が確定しました。この訴訟は、フィクション作品が現実の事件や人物を扱う際に生じうる法的および倫理的な問題について、改めて社会に問いを投げかける出来事となりました。

関連項目

* 甲山事件

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