掃天星表

掃天星表（Durchmusterung）とは

掃天星表（そうてんせいひょう、Durchmusterung）は、全天の恒星を体系的に調査し、位置や明るさなどを記録した星表の総称です。特に有名なのは、『ボン掃天星表』、『南天掃天星表』、『コルドバ掃天星表』、『ケープ写真掃天星表』の4つで、これらをまとめて掃天星表と呼ぶことが多いです。これらの星表は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、天文学の発展に大きく貢献しました。

掃天星表の特徴は、その網羅性にあります。当時の観測技術を駆使し、可視光で観測できる限り多くの恒星を捉え、その位置や明るさ（視等級）を詳細に記録しました。ドイツ語の「Durchmusterung」は「組織的な調査」を意味し、この星表群が系統的な観測に基づいて作成されたことを示しています。当初は恒星のみが対象でしたが、現代では他の天体も調査対象となっています。

掃天星表の起源と発展

ボン掃天星表（Bonner Durchmusterung, BD）
1859年から1903年にかけて、ボン天文台でフリードリヒ・ヴィルヘルム・アルゲランダーらによって作成されました。約32万個の恒星の位置を1855.0年分点で記録しており、現代の星図の基礎となる重要な星表です。北天と一部の南天をカバーしています。

南天掃天星表（Südliche Durchmusterung, SD）
ボン掃天星表の拡張として、1886年に発表されました。ボン掃天星表がカバーしていなかった南天の領域（赤緯-1°～-23°）を補完し、約12万個の恒星が追加されました。

コルドバ掃天星表（Córdoba Durchmusterung, CDまたはCoD）
南天の観測をさらに進めるために、アルゼンチンのコルドバ天文台でジョン・M・トーミの主導により1892年に発表されました。肉眼観測のみによって作成され、約58万個の恒星を収録しています。ボン掃天星表と同じ手法で作成されました。

ケープ写真掃天星表（Cape Photographic Durchmusterung, CPD）
1896年に発表され、南アフリカのケープタウン天文台で作成されました。この星表では、当時の新技術であった写真撮影を用いて観測が行われ、より高い精度で恒星の位置が記録されました。

これらの星表は、天文学や測地学の研究において、地軸、春分点、黄道面に基づく天文基礎座標系の確立に貢献しました。また、20世紀の星図であるAG星表やSAO星表の基礎にもなっています。

掃天星表の現代的意義

掃天星表は、その後の天文学の発展において重要な役割を果たしました。しかし、位置精度の限界や全天を網羅しきれていないなどの課題もありました。そのため、より正確で網羅的な星表が求められ、観測衛星による観測へと発展していきます。

観測衛星の登場によって、より多くの星の観測が可能となり、ヒッパルコス[[星表]]、ティコ星表、ティコ第二星表などが作成されました。これらの星表は、掃天星表よりも精度が高く、より多くの星を収録しています。特にヒッパルコス衛星は、10万以上の恒星を非常に高い精度で測定しました。また、ガイア衛星による観測も計画されており、これによりさらに多くの恒星が詳細に観測される予定です。

星表番号と使用法

掃天星表の星には、それぞれの星表に固有の番号が付与されています。例えば、ボン掃天星表の場合は「BD」、コルドバ掃天星表の場合は「CD」（または「CoD」）、ケープ写真掃天星表の場合は「CPD」といった記号が用いられます。これらの記号と赤緯、そして個別の番号を組み合わせることで、特定の恒星を識別することができます。

例：シリウスの場合、BD-16 1591（BD：ボン掃天星表、-16：赤緯、1591：番号）

これらの番号は現在でも使用されていますが、複数の星表に同じ星が重複して記載されていることもあり、混乱を招くこともあります。天文学者は、スペクトルデータが含まれるHD星表などを好んで使用しますが、HR星表にない星を探す際には、掃天星表が依然として重要な役割を果たしています。

このように、掃天星表は過去の天文学の遺産であるだけでなく、現代の研究においても重要な情報源として活用されています。

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