提灯火

提灯火（ちょうちんび）

提灯火とは、日本各地で目撃される神秘的な鬼火の一種であり、その名の通り、まるで提灯のような光を放ちます。この現象は特に田の畦道などに出没し、地面から約1メートルの高さを漂っていることが特徴です。人間が近づくと、その光は消えてしまうため、目撃者は不思議な感覚に包まれます。

四国にある徳島県では、特にこの提灯火が多く観察され、一度に数十個もの火が現れることもあります。その様子はまるで電球が並んでいるかのようで、見かけた人々に強い印象を与えます。提灯火は、昔から化け物が火を灯していると考えられてきたため、この名前が付けられたと言われています。また、狐の仕業とも伝えられています。

同じ徳島県の三好郡では、この火を「狸火（たぬきび）」と呼び、狸が火を灯していると信じられています。1736年に発表された雑書『諸国里人談』には、摂津国川辺郡東多田村（現在の兵庫県川西市）で目撃された狸火のエピソードが記されています。この狸火は、火の形をして牛を引く人間の姿をしており、見る者がその正体に気付かずに狸火と話をするというユニークな詳細があります。

さらに、奈良県の葛下郡松塚村ではこの怪火を「小右衛門火（こえもんび）」と呼びます。この火は主に雨の降る夜に出没し、地面から約90センチメートルの高さを浮遊します。そして墓場から墓場へと4キロメートルも飛び巡ることがあるのです。曲亭馬琴の奇談集『兎園小説』によると、小右衛門という人物がこの火の正体を確かめるために松塚村に向かい、目の前の火の玉が頭上を飛び越えていく様子に遭遇しました。彼が杖で叩こうとすると、火は数百個に分かれ、彼を取り囲んだと言われています。小右衛門は驚き、その後高熱にかかり、命を落としてしまったという話が広まり、小右衛門火と名付けられるようになったのです。

この怪火は、単なる民間伝承に留まらず、多くの人々に恐れられてきました。江戸時代の怪談小説『御伽厚化粧』では、近江国（現・滋賀県）沼田の小右衛門火が登場します。その内容によると、この火は貪欲な庄屋が悪事を働いて死罪となった際、その怨みが怪火となって現れるとされています。

ある旅役者の一座が、試しに怪談の芝居に使う「ヒュードロドロ」という笛を吹いたところ、小右衛門火が役者に向かってきました。その火の中に青白い人間の顔が浮かび上がる様子を目の当たりにした役者たちは恐れおののき、すぐに逃げ帰ったという伝説も存在します。これらの多彩な暦あらしや伝承から、提灯火は日本の民間信仰や神秘的な存在感を今に伝える貴重な文化遺産となっています。

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