改葬

改葬とは

改葬（かいそう）とは、現在のお墓に納められている遺体や遺骨を、別の墳墓（お墓）や納骨堂に移したり、散骨、手元供養といった方法で供養したりすることを指します。少子高齢化や核家族化、あるいは生活圏の変化に伴い、お墓の承継が難しくなったり、お墓が遠方になり管理が負担になったりするケースが増加しており、近年「墓じまい」という言葉とともに改葬への関心が高まっています。

法的根拠と手続き

改葬は、「墓地、埋葬等に関する法律」（昭和23年法律第48号、略称：墓埋法）によって厳格に定められています。たとえ自身が管理するお墓であっても、市区町村長の許可なく勝手に遺骨を移動させることはできません。

墓埋法第2条の3では、改葬を「埋葬した死体を他の墳墓に移し、又は埋蔵し、若しくは収蔵した焼骨を、他の墳墓又は納骨堂に移すこと」と定義しています。また、同法第5条により、改葬を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村長（特別区の区長を含む）の許可を得なければならないとされています。

改葬を進める際には、一般的に以下の手順を踏むことが推奨されています。

1. 関係者との合意形成: 現在のお墓に関わる親族や親戚など、利害関係者と十分に話し合い、改葬について全員の合意を得ることが最も重要です。同意なく強行した場合、深刻な家族トラブルに発展し、墓石の再設置などを命じられる法的な問題に発展することもあります。
2. 受入証明書の取得: 遺骨の新しい納骨先（移転先の墓地や納骨堂など）の管理者から、「受入証明書」を発行してもらいます。
3. 埋葬証明書の取得: 現在お墓がある墓地の管理者（寺院、公営霊園、共同墓地管理者など）から、お墓に誰が埋葬されているかを証明する「埋葬証明書」を発行してもらいます。
4. 改葬許可証の交付申請: 現在お墓がある市区町村の役所に、上記の受入証明書と埋葬証明書を提出し、改葬許可の申請を行います。申請が受理されると、「改葬許可証」が交付されます。
5. 遺骨の取り出し: 交付された改葬許可証を現在の墓地管理者に提示し、石材業者などに依頼して遺骨を取り出します。この際、特に寺院墓地の場合は、離檀の手続きが必要となることや、お墓から故人の魂を抜くための閉眼供養（魂抜き）を行うことが一般的です。遺骨を取り出した後、墓石の撤去や墓地の整地を行い、元の管理者に敷地を返還する作業も発生します。
6. 新しい場所への納骨: 新しい納骨先（移転先の墓地や納骨堂など）の管理者に改葬許可証を提出し、遺骨を納骨します。この際、新しいお墓や納骨堂に故人の魂を入れる開眼供養や、納骨式といった儀式を行うことがあります。

これらの法的な手続きを踏まずに改葬を行った場合、墓埋法違反として罰金などの罰則が科される可能性があります。また、不適切な方法で遺骨を扱った場合は、刑法の墳墓発掘罪や墳墓発掘死体損壊等罪に問われるリスクも存在するため、必ず正規の手順で進める必要があります。

改葬の種類

改葬は、その主体や理由によって主に以下の三つに分類されます。

使用者都合による改葬: お墓の管理者が、墓地の場所が遠い、お墓の承継者がいない、管理費用が負担であるなどの理由で、自己の意向により改葬を行うケースです。近年増加している「墓じまい」の多くはこの類型に含まれます。墓じまいでは、既存の家墓を閉じて、別の場所の墓地に移転するだけでなく、合葬墓（合祀墓）や納骨堂への納骨、あるいは遺骨を海や山に撒く散骨、自宅で保管する手元供養といった多様な形式が選択されています。
管理者都合による改葬: 墓地全体の移転や区画整理など、墓地管理者の都合や公共事業などによって、結果的に個々のお墓が移動を余儀なくされるケースです。
無縁墳墓の改葬: 墓地使用者の後継者が不明になるなど、長期間にわたり管理されなくなった「無縁墓」について、墓地管理者が墓埋法施行規則に則った手続き（一定期間の公示など）を経て、合葬墓などへ改葬を行うケースです。

改葬件数の推移

厚生労働省が毎年公表している「衛生行政報告例」では、全国の改葬件数が集計されています。この統計で示される改葬数は、実際に改葬された遺骨（霊）の総数であり、お墓そのものの数ではない点に注意が必要です。しかし、この統計から改葬の増加傾向を読み取ることができます。

例えば、平成9年度（1997年度）には年間約7万霊だった改葬件数は、年々増加傾向を辿り、令和5年度（2023年度）には年間約16.7万霊に達しています。無縁墓の改葬数を除いた使用者都合による改葬霊数を、一般的なお墓に納められている遺骨数を考慮して概算すると、改葬されたお墓の数はこの四半世紀で2倍以上に増加したと推定されており、社会的な関心の高まりを示しています。

手続き代行と法的問題

「墓じまい」などの改葬手続きを代行する業者として、行政書士や葬儀社、石材業者などが存在する一方で、これに関連する法的な問題も指摘されています。祭祀財産であるお墓の処分や、それに伴う寺院との間で発生しうる離檀料に関する交渉などは、財産権に関わる法律事件にあたるため、弁護士法第72条で定められた「非弁行為」に該当する可能性があります。弁護士以外の者が報酬を得てこれらの法律事務を扱うことは禁じられています。また、業者が自らは代理せずとも、トラブル発生時に特定の弁護士を紹介するなどの行為は、弁護士法第27条の「非弁提携」にあたる可能性も指摘されています。

したがって、親族以外の第三者に改葬手続きの代行を依頼する場合、特に複雑な問題が予想されるケースでは、弁護士に相談・依頼することが法的に適切かつ安全な方法とされています。

情報の扱いに注意

改葬に関する情報には、正確性を欠くものや意図的なミスリードを誘うものも存在します。前述の厚生労働省の統計データ（改葬数：霊数）を、そのまま「改葬されたお墓の数」として紹介するメディアや業者が見られますが、これは統計の単位を誤解させる表現です。また、墓じまいの障害として高額な離檀料トラブルが強調されることがありますが、具体的な発生頻度など客観的なデータが十分に公表されていない点にも留意が必要です。

改葬を検討する際は、複数の信頼できる情報源を参照し、自治体や専門家（弁護士など）に相談しながら、慎重に判断を進めることが大切です。

関連項目

墓
霊園
墓地、埋葬等に関する法律
* 墓じまい

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