救命艇手

救命艇手（きゅうめいていしゅ）

救命艇手とは、船舶が遭遇した緊急事態、例えば衝突、火災、沈没などが発生した際に、船内の人命を守るための重要な役割を担う専門資格保持者です。国土交通大臣が実施する救命艇手試験に合格するか、または特定の要件を満たして認定された者を指します。

任務と役割

救命艇手の主な任務は、非常時における迅速かつ適切な対応を通じて、乗員や旅客を安全に避難・救助することです。具体的には、以下のような業務を行います。

救命艇や救命いかだへの食料、水、応急手当用品、航海用具などの非常用物資の積み込みと確認。
混乱した状況下での海員や旅客に対する避難誘導、安全確保の指揮。
救命艇の降下、操作、および安全な航行。
その他の救命設備（例えば非常用無線機や発煙信号など）の操作。
漂流者や負傷者に対する応急処置。

彼らは、訓練された知識と技能を駆使し、極限状態においても冷静沈着に行動することが求められます。

資格取得の要件

救命艇手の資格を取得するには、主に二つのルートがあります。

1. 試験による取得

国土交通省が実施する救命艇手試験に合格する必要があります。この試験は定期的に行われるものではなく、必要に応じて不定期に実施されます。試験の実施が決定されると、地方運輸局長によって試験地、日程、受験料などが告示されます。試験内容は筆記試験と実技試験から構成されます。

受験資格は以下の通りです。

18歳以上であること。
有効な健康証明書を所持していること。
以下のいずれかの乗船履歴を有すること。
遠洋区域または近海区域を航行する船舶（沿海区域を航行する旅客船を含む）、あるいは特定の乙区域または甲区域を航行する総トン数500トン以上の漁船に、甲板部の職員または部員として通算して1年以上乗船した経験。
上記の条件に該当しない船舶に、甲板部の職員または部員として通算して2年以上乗船した経験。
特定の試験区分に応じて、通算して3年以上または1年以上の乗船経験。

2. 無試験認定による取得

以下の条件を全て満たし、かつ、いずれかの該当項目に合致する場合、試験を受けることなく救命艇手として認定される制度があります。

18歳以上であること。
有効な健康証明書を所持していること。
通算して6ヶ月以上の船舶乗船経験があること。
上記の条件に加え、以下のいずれかに該当すること。
海技士（航海、機関、通信のいずれか）の資格を持つ海技従事者であること。
大学、高等専門学校、または高等学校において、救命艇の操作に関する正規の教育課程を修めて卒業した者であること。
海技大学校、海員学校、海上保安大学校、海上保安学校、または水産大学校を卒業した者であること。
国土交通大臣が救命艇手に関するものとして認定した講習を修了した者であること。

試験内容

救命艇手試験は、船舶の非常時対応に必要な知識と技能を評価するために行われます。

筆記試験

救命艇や救命いかだに関する構造、設備、積載物、運用に関する知識。
衝突、火災、沈没といった船舶の非常事態に関する知識。
非常時の任務遂行に関する知識。
船舶における消火活動に関する基本的な知識。
救命艇の種類やそれぞれの特徴に関する知識。
救命艇の設備や構造に関する知識。
救命艇の推進装置（例えば手回し式や機関式など）に関する知識。

実技試験

救命胴衣の正しい着用法や機能に関する知識と実演。
転覆した救命艇を元の状態に戻す（起こす）方法。
救命艇に義務付けられている表示内容の理解と、それに従った行動。
非常時における基本的な医療措置（応急手当）の実演。
* 救命艇の降下、離脱、操縦などの実践的な操作技能。

関連情報

救命艇手の資格や職務内容は、船員法などの関連法令に基づいて定められています。また、救命艇手よりも担当範囲が限定された「限定救命艇手」という資格も存在します。

救命艇手は、海上の安全を守る上で欠かせない、高度な専門知識と実践的な技能が求められる重要な役割を担っています。

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