教祖の文学

教祖の文学：坂口安吾による小林秀雄論

坂口安吾の『教祖の文学』は、評論家・小林秀雄の文学観を批判的に考察した作品です。1947年に『新潮』に発表され、安吾独自の視点から小林の思想と評論を鋭く分析しています。

作品の背景と概要

安吾は、小林秀雄の評論に潜むペシミズム的な悟性とニヒリズム的な姿勢に着目しました。小林の文学観を「教祖」という言葉で表現し、その思想の核心に迫ろうと試みています。作品は、安吾と小林の過去の出会いから始まり、小林の文学に対する姿勢や言葉を引用しながら、安吾自身の文学観と人間観を浮き彫りにしていく構成となっています。

小林秀雄への批判

安吾は、小林の「美しい「花」がある。「花」の美しさといふ様なものはない」という言葉や、「世阿弥の美術観には疑いようがないから、観念の曖昧さ自体が実在である」という著述を取り上げ、その姿勢を一種の奥義であると指摘します。悟性に基づいた小林の姿勢を教祖的であると批判し、その文学観に疑問を投げかけています。

小林が「生きてゐる人間なんて仕方のない代物だな」と述べていることに対して、安吾は、小林が過去の歴史の中にのみ不動の美を見出し、生きる人間を鑑賞に耐えない存在と見なしている点を批判しています。小林を「歴史の必然」を説く鑑定人に過ぎないと断じ、その観賞眼の偏りを指摘しています。

文学の姿と人間の存在

小林の観賞批判を受け、安吾は文学の姿と人間存在について独自の考察を展開します。宮沢賢治の詩を例に挙げながら、文学の本質に迫ろうと試みます。また、人間は本来孤独であり唯一の存在であると主張し、小林が語る地獄の相とは異なる、人間存在の根源的な孤独を強調しています。

小説の本性と作家の姿勢

安吾は、人間の孤独に加え、小説そのものの本性を露わにしようとします。作家はどのような姿勢で文学と向き合うべきか、という問いを投げかけ、自身の文学観を表明しています。

教祖の虚無性

最後に、小林の落下事故に触れ、教祖たる彼自身の虚無性が語られます。安吾は、小林の事故を通して、その思想の限界と虚無性を指摘し、作品全体を締めくくっています。

『教祖の文学』は、単なる小林秀雄論に留まらず、安吾自身の文学観、人間観が色濃く反映された作品です。小林秀雄という存在を批判的に見つめることで、安吾は自身の文学のあり方を問い直し、読者に深い思索を促しています。

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