教訓絵

教訓絵（きょうくんえ）は、江戸時代から明治時代にかけて制作された浮世絵の一形式です。これらの絵は、女性の人生において直面するさまざまな状況を想定し、精神的な教訓を伝えることを目的としています。教訓画（きょうくんが）とも呼ばれるこの絵画は、当時の女性たちだけでなく、幅広い層の人々に親しまれていました。

＿教訓絵には、著名な浮世絵師たちによる作品が含まれており、どれも美しいビジュアルで描かれています。江戸幕府は宗教に厳格な規制をかける一方で、社寺や庶民教育に対しては配慮を示しました。特に、幕府は儒教を通じて教化政策を進め、教訓的な作品が評価される傾向がありました。初期の草双紙においても、教訓的内容は推奨され、不適切な題材は取締りの対象とされました。しかし、浮世絵師たちはこうした制約の中でも自由な表現を求め、教訓絵が生まれる土壌を作り出しました。表現力豊かな浮世絵が、教訓を伝えるための有効な手段となったのです。_

教訓絵の中でも特に目を引くのは、鈴木春信や喜多川歌麿などの名作です。鈴木春信の「五常」シリーズは、儒教の基本的な五つの徳（仁、義、礼、智、信）をテーマにしたもので、優雅な女性の姿が描かれ、倫理的な教訓として歌が添えられています。たとえば、『五常 智』では、習字を練習する少女が描かれ、指導者との関わりが表現されています。一方、『五常 仁』では、日常生活における他者への思いやりの重要性が強調されています。

喜多川歌麿の『教訓親の目鑑』シリーズ全10図も興味深い作品です。これらは女性の欠点を鋭く指摘しながら、同時に親に対する教訓に結びつけることで新しい視点を提供しています。中には、『俗二云ぐうたら兵衛』のように、朝遅く起きた女性が描かれ、髪が乱れ、目がしっかり開いていない様子がコミカルに表現されています。このように、歌麿はダメなところを指摘しながらも、彼女たちの個性や美しさに光を当てて描いているのが特徴です。_

教訓絵は、現代のマナー本や自己啓発書に相当する位置付けであり、人々に生きるための指針を与え、心の癒しやヒーリングの役割も果たしていました。また、その美しいビジュアルは人々に楽しさを提供し、見ること自体が喜びであったことが想像されます。

明治時代に入ると、教訓絵は歴史的な教訓をテーマにしたシリーズや教育用の木版印刷が増えてきました。小林清親や井上安治、月岡芳年らのコラボレーション作品である『教導立志基』などがその一例です。清親は1882年以降に教訓絵の制作に取り組み、例えば『日本修身入門掛図』といった作品を残しました。他にも、歌川国輝が描いた『教訓三界図会』が一般的に知られています。

全体的に見ると、浮世絵全体の中では教訓絵は数が少なく、優れた作品も限られていますが、その中にも高い美意識と教訓性が反映されていて、江戸時代の文化を理解するうえで欠かせない要素となっています。

もう一度検索