数の風景

数の風景

松本清張の長編推理小説『数の風景』は、1986年から1987年にかけて『週刊朝日』に連載され、その後1987年に朝日新聞社から出版されました。この作品は、数がもたらす不思議な運命と人間の行動の因果関係を描いた、深いテーマ性を持つミステリーです。

あらすじ

物語の主な舞台は島根県。設計技師の板垣貞夫は、石見銀山観光開発計画の一環として、この地域を訪れることになります。そこで彼は、カノチエ帽を身につけた魅惑的な女性、梅井規久子と出会います。一方、同宿の谷原泰夫は、女性の宿帳に書かれた名前に気づき、彼女の行動が数に強い関係があることに興味を持ちます。谷原は債権者から逃れるため、土地の利権を操ろうと画策する中で、彼女の数への執着が何を意味するのかを考え始めます。

次第に物語は、谷原が抱える事情と板垣が関わる自動車メーカーの開発プロジェクトが絡み合いながら、進行していきます。谷原が行方不明になった後に、夏井武二が調査に乗り出し、彼と梅井の間に潜む秘密が暴かれていくことになります。

主な登場人物

• - 谷原泰夫: 東京の不動産と出版業を経営していたが破産し、逃避行の最中に断魚荘に宿泊。自殺を考えながら、人生の岐路に立たされる。
• - 板垣貞夫: 土木建築関係の設計士で、石見銀山の調査のために山陰を訪れる。
• - 梅井規久子: 十六島で出会った女性で、計算に強い興味を持つ行動派。
• - 夏井武二: 交通業界の雑誌で働く元出版社の社員で、谷原の知り合い。
• - 水巻ユカリ: 谷原が設立した会社の事務員。若々しく、明るい性格。
• - 上野吉男: 山陰の大企業社長で、物語の鍵を握る重要な人物。
• - 守屋豊一郎: 石見銀山調査の依頼者であり、地域の拠点的存在。

エピソード

作中でのエピソードや背景に深い歴史が込められており、松本清張が取材のために石見銀山を訪れた際の経験も描かれています。また、作中では数に対する興味深い考察が展開され、ブルックナーの強迫性障害が言及されるなど、読み応えのある内容となっています。

書誌情報とメディア展開

本作は様々な形で再刊されており、文庫版や全集としても出版されています。また、1991年にはテレビドラマ化され、多くの視聴者に親しまれました。

結論

『数の風景』は、シンプルな推理小説に留まらず、数が持つ哲学的な側面や人間関係の複雑さを描く傑作です。登場人物の個々のバックストーリーや動機が巧妙に絡み合い、最後に真実が明らかにされる際の緊張感こそが、読者を魅了する要因となっています。

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