断碑

断碑

松本清張の短編小説『断碑』は、1954年に『別冊文藝春秋』に掲載され、その後1956年に短編集『風雪』として刊行された作品です。本作では考古学を志す主人公の苦闘を通じて、学歴や学説の対立が生む葛藤が鮮烈に描かれています。

あらすじ

主人公・木村卓治は、京都帝国大学で助教授杉山道雄から初めて考古学の教えを受けますが、彼は京大で疎まれ、次第に東京帝室博物館の高崎健二に指導を仰ぐことになります。卓治が送った調査ノートを高崎が評価し、彼の原稿が雑誌に載ることになるも、卓治は旧制中学卒という学歴が理由で博物館に入ることができず、高崎と杉山に対する恨みを募らせます。この出来事が卓治の情熱の源になり、彼は仲間を集めて「中央考古学界」を立ち上げ、機関誌『考古学界』を発行します。

その中で、卓治は高崎のスタイルや杉山の研究を反逆する旨の調査報告書を発表し、さらには高崎からの出入り禁止の通知や杉山からの非難の手紙を受けることになります。これにより卓治は絶交状を投函し、博物館との縁を一層断ち切ります。

昭和6年、卓治はフランスへの留学を果たしますが、健康を損ね、何も得られないまま帰国することになります。帰国後、彼は弥生式土器に関する独自の研究に没頭し、執筆活動を続けるも、妻のシズエが昭和10年に亡くなると、彼の人生は一層暗い影を落とすことになるのです。

モデルと実在の人物

本作はフィクションでありながら、実在の考古学者森本六爾の生涯にインスパイアされています。松本清張は、森本に関する情報を集め、彼の無念や功績を小説の中に描きました。この作品が彼の文学的探求の一端を担い、考古学への関心が強く示されています。

文学的評価

『断碑』は、松本清張が抱えるテーマ—不遇な才能や報われざる学者の悩みを通じて、彼自身の作家としての立ち位置を模索した作品とも言えます。文学者や考古学者からは、学界の状況が的確に描かれており、清張自身の考古学への理解と情熱が反映されていると評価されています。特に田中実や松本常彦といった研究者たちは、作品に込められた深層的な心理描写や社会的背景を指摘し、高く評価しています。

結論

『断碑』は、松本清張の初期の代表作としてだけでなく、日本文学における考古学の位置づけを考察する貴重な作品です。本作を通じて、学問に対する情熱とそれに対する社会的な偏見の狭間で苦しむ人物像が浮き彫りになっており、多くの読者にとって深い共感を呼び起こすことでしょう。

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