新世代への啓示

『新世代への啓示』：キング・クリムゾンの軌跡を辿る初の公式集大成

『新世代への啓示』（原題: A Young Person's Guide to King Crimson）は、イングランドが誇る革新的なロック・バンド、キング・クリムゾンの歴史において、初めて公式に発表された編集アルバムです。

バンドが1974年10月に解散を宣言した後、ライブ・アルバム『USA』に続いて、1976年2月に2枚組のLPレコードとしてリスナーの元に届けられました。これは、活動を停止したバンドの、それまでの歩みを振り返る重要な作品となりました。

このアルバムの選曲と構成は、1969年のバンド結成から1974年の解散まで、唯一途切れることなく在籍し続けた中心人物であるギタリスト、ロバート・フリップ自身が手掛けました。彼はバンドの音楽的方向性を常に牽引してきた存在であり、自身の視点からこの時期のキング・クリムゾンのサウンドと歴史を厳選して提示しています。

アートワークもまた、本作の特別な性格を際立たせています。ジャケットには、スコットランド出身の画家ファーガス・ホールの作品が採用されました。表ジャケットには"The Landscape Player"、裏ジャケットには"Earth"という異なる絵が配され、アルバムのタイトルが示唆する世界観とも呼応する、象徴的で幻想的な雰囲気を醸し出しています。

さらに、本作には非常に価値の高い詳細なブックレットが付属しました。このブックレットには、1969年から1974年までのキング・クリムゾンの全コンサートについて、日付と会場が正確に記録されています。加えて、バンドの前身であるジャイルズ・ジャイルズ＆フリップとして活動を開始した1968年6月1日から、この編集盤のリリースが音楽誌上で初めて予告された1975年11月15日に至るまでの期間に、主要な音楽雑誌などに掲載された記事や評論の要約が、日付を追って丁寧にまとめられています。これは、当時の音楽シーンにおけるキング・クリムゾンの評価や、バンドを取り巻く状況を知る上で、現在でも極めて貴重な一次資料となっています。

アルバムに収録された楽曲は合計15曲。これらの楽曲は、キング・クリムゾンの1969年から1974年にかけて発表された主要なスタジオ・アルバム群からバランス良く選ばれています。

具体的には、

衝撃的なデビュー作『クリムゾン・キングの宮殿』（1969年）から3曲（うち1曲は短縮バージョン）
セカンド・アルバム『ポセイドンのめざめ』（1970年）から3曲
実験的な色彩を深めた『アイランズ』（1971年）から1曲
新たなサウンドへと変貌した『太陽と戦慄』（1973年）から2曲（うち1曲は短縮バージョン）
よりヘヴィな方向性を示す『暗黒の世界』（1973年）から2曲
攻撃的かつ緊張感に満ちた『レッド』（1974年）から2曲

が選曲されています。これらに加え、当時のシングルB面曲として発表された「グルーン」や、キング・クリムゾンの前身であるジャイルズ・ジャイルズ＆フリップによる未発表音源「風に語りて」といった、編集盤ならではの貴重なトラックも収録されており、バンドのルーツにまで遡る構成となっています。

本作の発表とほぼ同じ時期には、特に代表曲として知られる「エピタフ」がシングルとしてリリースされ、改めてバンドの音楽が注目される機会となりました。また、このアルバムは後の時代にも価値が再認識され、1990年には日本で2枚組CDとして再発売されています。

『新世代への啓示』は、キング・クリムゾンの多岐にわたる音楽性と、1969年から1974年という彼らの初期から中期にかけての重要な活動期間を俯瞰するための、優れた入門編であると同時に、豊富な資料を含むブックレットによって、バンドの歴史を深く掘り下げたいファンにとっても indispensable（不可欠）な作品と言えるでしょう。

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