新井和宏

新井 和宏

新井 和宏（あらい かずひろ）氏は、1968年生まれの日本の実業家であり、金融における新たな価値観の提唱者として知られています。神奈川県横浜市出身で、鎌倉投信株式会社の創業者・取締役を務める傍ら、非営利株式会社eumoの創業者・共同代表取締役としても活動しています。経済活動と社会貢献の両立を目指す彼の取り組みは、多くの注目を集めています。

経歴

新井氏は、1988年に神奈川県立鶴見高等学校を卒業後、東京理科大学工学部経営工学科で学び、1992年に同大学を卒業しました。その後、住友信託銀行（現在の三井住友信託銀行）に入社し、金融業界でのキャリアをスタートさせます。

2000年にはバークレイズ・グローバル・インベスターズ（現在のブラックロック・ジャパン）へ転職。ここでは、機関投資家向けの資産運用に深く携わりました。企業年金や公的年金といった大規模な資金を扱い、株式や為替、さらには資産配分戦略など、多岐にわたる運用業務で実績を積みました。ファンドマネージャーとして数兆円規模の資金運用を担った経験は、その後の活動の基盤となります。

金融の最前線で活躍する中で、新井氏の金融観に大きな変化が訪れます。2007年から2008年にかけて経験した大病、そして世界経済に大きな打撃を与えたリーマン・ショックは、彼にとって従来の金融工学や数式に基づいた投資手法、さらには金融市場そのもののあり方に対する疑問を深める契機となりました。約10年にわたり信奉してきた理論だけでは捉えきれない、より人間的で社会的な側面を持つ金融の可能性を模索し始めます。

鎌倉投信の創業と「結い 2101」

従来の金融のあり方に疑問を感じた新井氏は、志を共有する4人の仲間と共に新たな一歩を踏み出します。2008年11月、鎌倉投信株式会社を設立。これは、単なる経済的リターンだけでなく、社会や環境に貢献する企業を応援する「いい会社に投資する」という独自の哲学に基づく運用会社を目指すものでした。

創業後、2010年3月には、その哲学を具現化した初めての投資信託「結い 2101」の運用を開始。新井氏自身がその運用責任者を務めました。

「結い 2101」の最大の特徴は、徹底した「顔が見える運用」と、経済的な指標だけにとどまらない多角的な視点からの投資判断です。投資先企業の選定にあたっては、財務状況だけでなく、働く人々の満足度、顧客や取引先との信頼関係、環境への配慮、地域社会への貢献といった、企業の持つ社会的な価値や倫理観を重視します。さらに、投資先企業をすべて個人投資家に対して公開するという、当時としては極めて異例な透明性の高い情報開示を行いました。

こうした、従来の金融業界の慣習にとらわれない「あたたかい金融」とも称される運用哲学は、多くの個人投資家の共感を呼びました。その結果、2016年8月時点では1万6000人を超える個人投資家が「結い 2101」を保有し、純資産総額は230億円を突破するなど、着実に成長を遂げました。また、運用パフォーマンスにおいても高い評価を獲得し、2013年には格付投資情報センター（R&I）より、国内株式部門の投資信託としては最高評価となる最優秀ファンド賞を受賞しています。

非営利株式会社eumoの設立

鎌倉投信での活動を通じて、お金の流れが社会をより良く変える力を持つことを実感した新井氏は、さらに踏み込んだ社会変革を目指します。2018年9月13日、彼は非営利株式会社eumoを設立し、共同代表取締役に就任しました。eumoは、「共感資本社会」の実現を理念として掲げています。

共感資本社会とは、単なる経済的な利益追求ではなく、人々の共感や信頼、そして文化や環境といった非金銭的な価値が、社会を動かす新たな資本となるような社会のあり方を指します。eumoでは、この理念に基づき、地域に根ざした経済の活性化や、人と人とのつながりを深めるための新しい仕組みづくりに取り組んでいます。

その他の活動

新井氏は、実業家としての活動に加え、多方面で社会との関わりを持っています。2012年から2016年まで、横浜国立大学経営学部で非常勤講師として教鞭を執り、若い世代に自身の金融哲学や社会への考え方を伝えてきました。また、経済産業省の「おもてなし経営企業選」では、平成24年度および25年度の選考委員を務め、企業の非財務的価値を評価する重要性を提唱しました。特定非営利活動法人「いい会社をふやしましょう」の理事としても、志を同じくする仲間と共に活動しています。

著作・出演メディア

自身の経験と哲学をまとめた書籍も複数出版しています。

『投資は｢きれいごと｣で成功する 「あたたかい金融」で日本一をとった鎌倉投信の非常識な投資のルール』（ダイヤモンド社、2015年）
『持続可能な資本主義』（ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017年）
* 『幸せな人は「お金」と「働く」を知っている』（イースト・プレス、2017年）

これらの著書を通じて、彼が提唱する「あたたかい金融」や、持続可能な社会を実現するための経済のあり方について、広く発信しています。

また、NHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演し、そのユニークな仕事観と社会への貢献に対する情熱が紹介されました。

新井和宏氏は、従来の金融の枠組みに囚われず、人間の幸福や社会の持続可能性を追求する新しい経済の形を提案し続けています。彼の活動は、投資家だけでなく、企業や社会全体のあり方について考える多くの人々に影響を与えています。

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