新城長有

新城 長有（しんじょう ちょうゆう）氏は、昭和6年（1931年）10月31日に沖縄県石垣市で生まれ、平成31年（2019年）3月26日に87歳で逝去した、日本の著名な育種学者です。琉球大学の教壇に立ち、後に名誉教授の称号を授与されました。

新城氏の最大の功績は、イネの遺伝子の仕組みを深く探求し、収穫量が飛躍的に多い「ハイブリッド米」の開発を日本で初めて成功させたことにあります。通常、イネは一つの花の中に雄しべと雌しべの両方を持つため、品種間の交配によって優れた特性を引き出す雑種強勢の利用が難しい作物でした。しかし、新城氏は昭和33年（1958年）にインドの野生イネから雄しべが機能しない性質（雄性不稔性）を発見したことを突破口に、研究を重ねます。

彼は、この雄性不稔性を持つ日本の栽培品種（ジャポニカ米）の一代雑種イネを作り出すことに成功しました。さらに、雄性不稔性を回復させる特定の品種と交配することで、一代限りではあるものの、親品種の優れた形質を掛け合わせ、収穫量が格段に増えるハイブリッド米を生み出したのです。

開発されたハイブリッド米は、1970年代の日本では、当時のコメ余りや減反政策の推進といった農業情勢のため、すぐには大きな注目を集めませんでした。しかし、1972年の沖縄本土復帰に続き、日中国交回復の機運が高まる中で、食糧不足に苦しむ中国への支援として、日本の農林関係者の間でハイブリッド米の技術提供が検討されるようになります。新城氏は東京に招かれ、中国からの視察団に対し、自ら開発したハイブリッド米の種子を贈呈しました。

中国では、袁隆平氏をはじめとする研究者たちが新城氏の技術を受け継ぎ、研究を推し進めました。その結果、ハイブリッド米は中国全土で急速に普及し、1991年には栽培面積の約50％を占めるまでになり、特に長江以南の地域ではほぼ全面的に導入されました。これにより、中国は飛躍的に食糧生産量を増加させ、世界最大のコメ生産国へと成長しました。新城氏自身も二度にわたり中国を訪問するなど、中国の農業発展に積極的に協力しました。

中国での成功後、ハイブリッド米はアメリカにも広がり、さらなる改良が加えられて日本に逆輸入されることになります。1984年には、NHKが「謎のコメが日本を狙う」と題した特集番組を放送し、アメリカ資本による高収量品種の市場独占に対する懸念や、「種子戦争」としての議論、そして当時の日本の農業政策への批判が高まるきっかけとなりました。

新城氏は、これらの卓越した研究業績と国内外への貢献に対して、多くの栄誉を受けています。

主な受賞・栄典：

1979年 日本育種学会賞
1984年 沖縄タイムス文化賞
1993年 日本農学賞、読売農学賞
1996年 紫綬褒章
2003年 勲三等旭日中綬章
2012年 みどりの学術賞

新城長有氏は、イネ育種学における革新的な発見と技術開発を通じて、特に食糧問題の解決に大きく貢献した、日本の科学史において重要な人物と言えるでしょう。

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