新歌舞伎十八番

新歌舞伎十八番とは

新歌舞伎十八番（しん かぶきじゅうはちばん）は、日本の伝統芸能である歌舞伎において、市川宗家である成田屋に伝わる特別な演目集、すなわち「お家芸」の一つです。この家芸集は、歌舞伎十八番とは別に存在し、七代目市川團十郎によって構想され、その志を継いだ五男の九代目市川團十郎によって完成されました。

成立の経緯

新歌舞伎十八番の着想は、歌舞伎十八番を選定したことで知られる七代目市川團十郎自身に始まります。七代目は、自身の役者としての生涯において特に得意とした役柄や、観客から高い評価を得た当たり役の数々をまとめ、新たな家芸集として後世に伝えようと考えていました。しかし、この壮大な計画が日の目を見る前に、七代目は惜しくも世を去ってしまいます。

父の遺志を受け継いだのは、五男であり後に名優と称される九代目市川團十郎でした。九代目は父の構想を引き継ぎ、明治時代に入ってからこの家芸集の編纂作業を本格的に進めました。そして、明治20年（1887年）頃に、新歌舞伎十八番として正式に完成したと伝えられています。

名称の由来と演目数

新歌舞伎十八番を完成させた九代目團十郎は、父・七代目が構想段階で用いた「新歌舞伎十八番」という名称をそのまま採用しました。しかし、実際に九代目によって選定された演目の総数は、「十八番」という名前に含まれる「十八」という数字を大きく超えるものでした。

この数字の不一致について、九代目は「十八番」という言葉を、単に数を指す「じゅうはちばん」としてではなく、役者が最も得意とする、あるいは最も秀でている芸や演目を意味する「おはこ」として解釈したと考えられています。つまり、新歌舞伎十八番は、市川宗家の「新たな得意芸集」といった意味合いが込められていると言えます。

最終的に新歌舞伎十八番として撰ばれた演目の数は、資料によって異同がありますが、少なくとも32、あるいはそれに加えて8演目を加えた40とされています。この点からも、名前に反して多くの演目が含まれていることが分かります。

演目の特徴と現代における位置づけ

新歌舞伎十八番に選ばれた演目の中には、九代目市川團十郎が当時熱心に推進していた「活歴物」（かつれきもの）と呼ばれるジャンルの作品が多く含まれています。活歴物とは、歴史上の出来事や人物を、従来の時代物よりも史実に忠実に、写実的な演出で描こうとした試みです。これらの作品は、当時の演劇界に新たな風を吹き込みましたが、その内容や形式ゆえに、現代の歌舞伎公演においては、歌舞伎十八番などに比べて上演される機会が極めて少なくなっています。

今日では、新歌舞伎十八番の多くの演目は、文献資料の中にその名を留めるのみで、実際の舞台で上演されることは稀です。一部の演目が特別な機会に復活上演されることもありますが、大部分は現代の観客にとっては馴染みの薄い、「幻の演目」と化しています。

しかし、新歌舞伎十八番は、七代目、九代目という二代の團十郎が、時代の変化の中で歌舞伎という芸能をどのように発展させようとしたか、また市川宗家としてどのような芸の継承を目指したかを知る上で、非常に重要な歴史的意義を持つ家芸集です。その全容をたどることは、成田屋の芸の系譜と、明治期における歌舞伎の一断面を理解するための貴重な手がかりとなります。

このように、新歌舞伎十八番は、名称と実態の間にユニークな特徴を持ちながら、市川宗家の芸の歴史において確かな足跡を残しているのです。

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