新版歌祭文

『新版歌祭文』の概要

『新版歌祭文』（しんぱんうたざいもん）は、江戸中期の人形浄瑠璃および歌舞伎の名作で、愛と悲しみの心中事件を描いた作品です。作者は近松半二であり、1760年代に流行した世話物のスタイルを基にしています。この作品は、1780年に大坂竹本座で初演されました。

成立背景

物語の元ネタとなる心中事件は、1711年に実際に発生したものです。これに基づき、さまざまな創作が行われ、『新版歌祭文』もその流れの中で生まれました。特に影響を与えた作品として、1711年に豊竹座で初演された人形浄瑠璃『お染久松袂の白しぼり』があります。この作品は、所作事としての質の高さから多くの再制作がなされるほどの人気を博しました。

『新版歌祭文』では、お染と久松の心中の背景を描きつつ、当時の風俗や生活様式をリアルに描写しています。特に、劇中の野崎村の場面は半二の独自の創意によるものであり、作品に深みを与えています。

あらすじ

物語は、油屋の娘であるお染と、武家の家に仕える丁稚・久松の禁断の愛から始まります。二人は身分の違いを超えて恋に落ちますが、お染は他家との結納が決まっていました。そんな折、奸計によって二人は引き離されてしまいます。

久松は郷里の野崎村で、養父母の実娘お光との祝言を交わすことになりますが、その時にお染が現れます。お染は懐妊の事実を告げ、もし久松と別れることになれば死を選ぶと宣言します。久松は心の内で葛藤しつつ、お光は嫉妬の渦に巻き込まれますが、二人の真剣な思いを察し、身を引く決意をします。

一方、大阪に戻った久松には、家の再興という話が持ち上がりますが、奸計によって結納金を盗んだ罪にされ、蔵に閉じ込められてしまいます。そこで久松は、お染と再会し、窓越しにお互いの愛と来世での幸せを約束します。しかし、運命の歯車は他者によって回され、悲劇は避けられません。二人はそれぞれ命を絶つことを選ぶのです。

脚注と参考文献

この作品は多くの舞台化や脚色がなされ、今なお演じられることが多いです。参考文献としては、鶴見誠編の『浄瑠璃集 下』や、大東市の「お染久松物語」などがあります。これらから、作品の歴史や背景をひも解くこともできるでしょう。

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