新編鎌倉志

『新編鎌倉志』とは

『新編鎌倉志』は、江戸時代に水戸藩主であった徳川光圀の命によって編纂された地誌です。貞享2年（1685年）に刊行されました。

編纂の背景

光圀が藩主時代である延宝元年（1673年）に、水戸藩内では干魃や大火などの災害が多発していました。そのため、光圀はこの年に5回目の就藩を行い、藩内を巡検しています。その際、通常は水戸街道を経由するところを、藩領南部から上総国を経て、上総湊からの船旅で鎌倉へ至りました。鎌倉では英勝寺を拠点に名所旧跡を巡り、17日間の滞在を経て江戸へ帰府しています。

この鎌倉巡遊は、光圀にとって初めて自身の意思で行った旅でした。それまでは、父頼房に伴われて鎌倉や熱海に立ち寄る経験はありましたが、自らの意思で旅をすることはなかったのです。

編纂の過程

江戸への帰府後、光圀は彰考館員であった吉弘元常や河合友水（恒久）に、鎌倉での見聞録である「甲寅日記」「鎌倉日記」を代筆させました。その後、河合恒久に現地調査と増補を命じ、河合の死後は力石忠一がその意思を引き継ぎ、貞享2年に刊行に至りました。

内容の特徴

『新編鎌倉志』は、鎌倉及び江ノ島・金沢の名所旧跡を、119もの文献史料を基に詳細に解説しています。特に、現在知られる鎌倉七口や鎌倉十橋などは、この『新編鎌倉志』によって選定された「名数」であり、後年のガイドブックにも多数引用されています。

光圀は隠居後、藩内を巡遊したことから、後年には黄門漫遊譚が成立し、諸国を漫遊するイメージが定着していますが、実際には延宝元年の鎌倉巡遊が唯一の旅となっています。

刊本

『新編鎌倉志』は、『大日本地誌大系』や『新編鎌倉志（貞享二刊）影印・解説・索引』に収録されており、現在でも閲覧可能です。

『新編鎌倉志』で選定された名数

鎌倉七口
鎌倉十橋
鎌倉十井
鎌倉五水
鎌倉谷七郷

関連情報

『金沢名所旧跡記』 - 『新編鎌倉志』とは系統の異なる地誌

参考文献

* 鈴木暎一「藩内巡検と鎌倉への旅」『徳川光圀』（吉川弘文館、2006年）

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