旅立ち (松山千春のアルバム)

『旅立ち』（たびだち）

『旅立ち』は、日本のシンガーソングライターである松山千春によって、1986年10月25日にリリースされた、通算4枚目となるベスト・アルバムです。このアルバムは、松山千春がデビュー10周年という大きな節目を迎えた年に制作されました。

これまでのベストアルバムとしては、シングル曲を中心に構成された『起承転結』シリーズが既に3作発表されていましたが、本作『旅立ち』はそれらとは一線を画す特別な位置づけを持っています。その最大の特徴は、単に過去の音源を集めるのではなく、収録曲のすべてを松山自身が選び直し、そして全曲を新たにレコーディングしてアレンジメントも加え直した点にあります。これは、デビューから10年間の歩みを振り返りつつ、自身の楽曲に新たな解釈と息吹を与えようとする、アーティストの強い意志と探求心を示すものでした。

選曲においては、これまでのキャリアを彩ってきた名曲やファンに愛される楽曲が多数収められています。再録音にあたっては、当時の最新の音楽技術やアレンジが導入され、楽曲によってはオリジナルとは異なる雰囲気や表情を見せています。長年親しまれてきた楽曲が、このアルバムで装い新たに生まれ変わり、リスナーに新鮮な感動をもたらしました。

レコーディングには、当時を代表する錚々たるセッションミュージシャンたちが参加しています。例えば、ドラムには見砂和照、エレキギターには松原正樹、芳野藤丸、角田順といった名手が名を連ね、アコースティックギターは笛吹利明が担当しています。また、ベースに長岡道夫、キーボードには中西康晴、倉田信雄、エルトン永田、有坂秀一といった実力派が集結し、ストリングスは加藤 JOE GROUPや篠崎マサ GROUPが担当するなど、豪華な布陣による演奏が、再録音された楽曲のクオリティを一層高めています。彼らの卓越したテクニックと感性が、松山千春の歌声とメロディーに深みと彩りを加えています。

アルバムは、当時の一般的なリリース形態であったLPレコードとCDの両形式で同時に発売されました。CDが普及し始めた時期であり、両メディアでの同時リリースは時代の流れを反映したものでした。その後も、このアルバムは長く聴き継がれ、1992年には日本コロムビアから改めてCDとして再リリースされ、さらに2009年にはより高音質化されたHQCDとしても再び市場に提供されるなど、形態を変えながらも多くのリスナーに届けられ続けています。

『旅立ち』は、単なるヒット曲集ではなく、松山千春の10周年という節目における、過去の楽曲への敬意と未来への「旅立ち」を示唆するような、アーティストとしての挑戦と成熟が凝縮された記念碑的な作品と言えるでしょう。再録音・リアレンジという手法を通じて、自身の音楽と向き合い、新たな魅力を引き出した、彼のキャリアにおける重要なアルバムの一つです。

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