旅立ちの時 (映画)

旅立ちの時：逃亡と青春の狭間で揺れる少年の物語

1988年公開のアメリカ映画『旅立ちの時』(原題:Running On Empty)は、17歳の少年ダニーの葛藤と成長を繊細に描いた青春ドラマです。監督はシドニー・ルメット、主演は若き日のリヴァー・フェニックス。政治的背景を subtly に織り込みながら、家族愛、自己実現、そして未来への希望といった普遍的なテーマを深く掘り下げています。

ダニーは、一見普通の高校生です。彼は愛情深い両親と弟を愛し、音楽への情熱を秘めていました。しかし、彼の家族には隠された過去がありました。両親は1960年代の反戦運動に関与し、FBIから指名手配されている逃亡者だったのです。常に身分を隠し、転々と引っ越しを繰り返す不安定な生活の中で、ダニーは普通の青春を経験することが許されていませんでした。

ある日、家族はニュージャージー州に移り住みます。そこでダニーは、高校の音楽教師フィリップスと出会います。フィリップスはダニーの並外れたピアノの才能を見抜き、音楽大学への進学を強く勧めます。さらに、フィリップスの娘ローナと恋に落ち、ダニーは初めて本当の幸せを掴みかけたかのように感じます。

しかし、幸せな時間は長くは続きません。両親の過去の仲間が、父親を犯罪に巻き込みます。この事件をきっかけに、再び逃亡生活を余儀なくされる危険にさらされた家族は、新たな「引っ越し」を決意します。ダニーは進学という将来への希望と、愛する家族との生活の狭間で苦悩します。

ダニーは音楽大学への進学を真剣に考え、ジュリアード音楽院の実技試験を受けます。試験では確かな手応えを感じますが、偽名で生活してきたため、学業成績の証明書類がありません。この問題を解決しようと、音楽教師のフィリップスは、ダニーには内緒で母親アニーに接触します。

アニーはかつて、ピアニストとして成功する才能を持っていました。しかし、反戦運動に身を投じたことで、その夢を諦めざるを得なかったのです。彼女は、ダニーの未来を真剣に考え、かつて離れて暮らしていた自分の父親に相談します。父親は、ダニーを預かることでFBIの監視下に置かれる危険性を承知の上で、アニーの決意を支持します。

しかし、父親アーサーは、アニーと父親の決定に納得できません。彼は何よりも家族の絆を大切にしており、家族が離れ離れになることをどうしても受け入れられないのです。ガスが銀行強盗を行い逮捕されたことで、一家に更なる危険が迫り、アーサーは家族全員で逃亡することを決めます。

出発直前、ラジオからガスの逃亡と射殺のニュースが流れます。逃亡犯の悲惨な結末を目の当たりにし、アーサーは心を入れ替えます。彼はダニーに明るい未来を与えたいと決意し、ダニーを町に残すことを許します。そして、幼い弟と共に出発し、再び逃亡生活に入っていくのです。

この映画は、政治的なテーマを背景に持ちながらも、個人の葛藤や成長を丁寧に描いています。リヴァー・フェニックスの繊細な演技は、ダニーの内面の揺れ動きをリアルに表現し、観る者の心を深く揺さぶります。家族の愛、青春の葛藤、そして未来への希望。これらの要素が複雑に絡み合い、感動的な物語を作り上げています。

Rotten Tomatoesなどの批評サイトでも高い評価を得ており、リヴァー・フェニックスの演技と、世代間の対立を描いたストーリー展開が高く評価されています。

『旅立ちの時』は、単なる青春映画の枠を超え、家族、社会、そして人生の意味について考えさせる、忘れられない作品です。

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