日本の地誌

『日本の地誌』は、2005年から2012年にかけて朝倉書店から刊行された、日本を対象とする全10巻の地誌シリーズです。このシリーズは、単なる地域情報の羅列ではなく、刊行後30年間の日本における変化に着目し、そのプロセスと結果を議論することで、各地域の地域性を動態的に捉えることを目指しています。

構成と内容

『日本の地誌』は、以下の10巻で構成されています。

1. 『日本総論I（自然編）』（2005年）：日本の自然環境に関する総合的な解説。
2. 『日本総論II（人文・社会編）』（2006年）：日本の地理的特性、住民組織、資源、産業、農村と都市、生活様式、人や物の移動、地域システムなど、人文・社会的な側面を多角的に分析。
3. 『北海道』（2011年）：北海道の自然、歴史、社会、文化に関する詳細な記述。
4. 『東北』（2008年）：東北地方の地域的特徴を詳細に解説。
5. 『首都圏I』（2009年）：首都圏の概況を、社会、経済、文化など多角的に記述。
6. 『首都圏II』（2009年）：北関東（群馬県、栃木県、茨城県）と甲信越（長野県、山梨県、新潟県）を対象地域とし、首都圏との関連性を考察。
7. 『中部圏』（2007年）：中部地方の地理、歴史、産業などの特徴を詳細に記述。
8. 『近畿圏』（2006年）：近畿地方の歴史的背景を踏まえ、現代の社会構造や都市問題を考察。阪神・淡路大震災についての独立した章も特徴。
9. 『中国・四国』（2005年）：中国・四国地方の自然環境、歴史、文化、産業などを総合的に解説。
10. 『九州・沖縄』（2012年）：九州・沖縄地方の地理的特性、歴史的背景、社会構造、文化、産業を詳細に分析。

特徴

動態地誌: 刊行後の30年間の日本の変化に着目し、地域性の動態的な変化を記述している点が大きな特徴です。これにより、従来の地誌では捉えきれなかった、地域社会のダイナミズムが理解できます。
学術的価値: 人文地理学の研究において、フィールドワークの事前準備のための地域概況把握に不可欠な文献として位置づけられています。また、地誌学習においても有用な図書として広く参照されています。
詳細な記述: 各巻、地域の特徴を詳細に記述しており、特に『日本総論II』では、21世紀初頭の日本について、生活文化を含めたバランスの良い記述がなされています。
専門家による編集: 各巻とも、その地域やテーマに精通した専門家が編集を担当しており、質の高い情報を提供しています。

評価

池谷和信は、『日本総論II』について、21世紀初頭の日本についてバランス良く記述されていると評価しています。また、近畿圏の巻では、阪神・淡路大震災について独立の章を設けている点を特徴として指摘しています。

熊谷圭知は、北関東・甲信越を首都圏外縁部として扱う点に違和感を指摘しつつも、『首都圏I』を含めて地誌の記載内容や価値については高く評価しています。

『日本の地誌』は、日本の地域に関する理解を深める上で、非常に重要な文献です。研究者だけでなく、日本に関心を持つ一般の人々にとっても、価値ある情報源となるでしょう。

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