日本の著作権法における非親告罪化

日本の著作権法における非親告罪化：詳細解説

日本の著作権法では、長らく著作権侵害は親告罪、つまり権利者（著作権者など）の告訴がなければ刑事罰を科せられないのが一般的でした。しかし、2018年12月30日、TPP11協定の発効に伴う改正で、一定の条件下で著作権侵害が非親告罪化されました。これは、権利者の告訴を経ずに検察が起訴できるようになることを意味します。

改正の背景と概要

この改正は、海賊版の蔓延対策が主要な目的でした。親告罪では、権利者（特に中小企業など）が告訴をためらったり、告訴が遅れたりすることで、効果的な取り締まりが困難だったからです。TPP協定交渉において、アメリカ合衆国などが非親告罪化を強く求めたことも大きな要因です。

改正では、「有償著作物等」について、営利目的で複製物を公衆に譲渡・送信したり、そのための複製を行う行為が非親告罪とされました。「有償著作物等」は、有償で公衆に提供・提示されている著作物や実演等を指し、漫画、小説、映画、音楽、ソフトウェアなど多岐にわたります。ただし、権利者の利益が不当に害される場合に限られます。

賛否両論と影響

非親告罪化は、海賊版対策の強化というメリットがある一方、懸念も存在します。特に二次創作活動への影響が大きく議論されました。同人誌などの二次創作は、権利者の利益を不当に害するとはみなされないケースが多く、非親告罪化によって、意図せず違法行為とみなされる可能性があります。

反対意見としては、権利者の意思を無視して刑事罰を科すのは問題であるという点や、告発マニアによる濫用や警察の恣意的捜査を招く可能性があるという指摘があります。また、パロディ作品なども、従来は黙認されてきた部分があるのに、明確な基準がないまま非親告罪化されたことで、表現の自由を脅かす可能性も懸念されています。

一方、賛成意見としては、海賊版の横行によってコンテンツ産業が大きな被害を受けている現状があり、それを食い止めるためには、効果的な対策が必要であるというものです。親告罪では、権利者自身の手続き負担や、証拠集めにおける困難さなど、現実的な制約が多いため、非親告罪化によって、海賊版対策が強化されることは、コンテンツ産業の健全な発展にとってプラスに働くという意見が多くあります。

改正に向けた経緯

非親告罪化は、2007年頃から文化審議会などで議論されてきました。当初は一律の非親告罪化には慎重な意見が多く、同人誌などの二次創作への配慮も必要だとされていました。その後、TPP交渉などを経て、2015～2016年に具体的な改正案が検討され、2016年に国会で可決、2018年に施行されました。改正案では、二次創作などは非親告罪化の対象から除外する方向で調整が行われました。

海外での状況

アメリカ合衆国やフランスなど、多くの欧米諸国では、著作権侵害はもともと非親告罪です。ただし、米国では、被害者が捜査に協力しない場合は訴追しないという慣行があります。韓国でも、営利目的の常習的な著作権侵害は非親告罪化されています。

まとめ

日本の著作権法における非親告罪化は、海賊版対策と表現の自由という相反する要素のバランスが課題となっています。改正によって、海賊版対策は強化される一方、二次創作などの活動に影響が出ないよう、慎重な運用が求められます。今後、裁判例や社会的な議論を通じて、より明確な基準が確立されていくことが期待されます。 また、権利者とクリエイター間のより良い関係構築のため、新しいライセンス制度の活用なども検討されるべきでしょう。

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