日本国憲法第59条

日本国憲法第59条：法律案の議決と衆議院の優越

日本国憲法第59条は、法律案の成立過程における衆参両議院の役割と、特に衆議院の優越的地位を定めた重要な条文です。この条文は、日本の立法府における権力分立と効率的な立法活動を両立させるための仕組みを規定しています。

条文の内容

第59条は4項から構成され、それぞれ以下の内容を定めています。

1. 両議院可決: 憲法に特別の定めがない限り、法律案は衆参両議院で可決された時に法律となります。これは、通常の手続きにおける法律成立の要件です。
2. 衆議院の再可決: 衆議院で可決され、参議院で異なる議決がされた場合、衆議院は出席議員の3分の2以上の多数で再び可決すれば、その法律案は法律となります。これは、衆議院の優越性を示す規定です。
3. 両院協議会: 衆参両議院の議決が異なる場合、衆議院は両院協議会を開くことを求めることができますが、これは衆議院の任意です。
4. みなし否決: 参議院が衆議院の可決した法律案を受領後、国会休会期間を除く60日以内に議決しない場合、衆議院は参議院がその法律案を否決したものとみなすことができます。これは、参議院による不当な遅延行為を防止するための規定です。

各項の解説

1項（両議院可決）: 「憲法に特別の定めがある場合」とは、第59条2項で規定される衆議院の再可決や、地方自治に関する特別法制定手続き（憲法95条）など、特別な手続きを要する法律案を指します。これらは、通常の両議院可決とは異なる成立要件を定めています。

2項（衆議院の再可決）: この項は、衆議院の優越性を明確に示しています。参議院が衆議院の議決と異なる議決をした場合でも、衆議院が3分の2以上の多数で再可決すれば、法律案は成立します。この高いハードルは、参議院の意見を尊重しつつも、立法府の機能を円滑に動かすためのバランスを考慮したものです。

3項（両院協議会）: 衆参両議院の意見対立を調整する手段として、両院協議会が想定されています。しかし、協議会は衆議院の要請に依存するため、衆議院が拒否すれば開催されません。これは、衆議院の立法における主導権を反映しています。

4項（みなし否決）: この項は、参議院による法律案の長期審議や、事実上の否決を防止するための規定です。60日の期限内に議決されない場合、衆議院は参議院が否決したものとみなせるため、立法府の機能を阻害する事態を回避できます。ただし、国会休会期間は除外されるため、休会を悪用した遅延行為を防ぐ効果は限定的です。

歴史的経緯

第59条は、戦後の日本国憲法制定において、衆議院の優越的地位を明確に規定した条文です。これは、戦前の帝国憲法下における貴族院の強い影響力と、戦後の民主化を目指す流れを反映したものです。帝国憲法では、貴族院の同意がなければ法律が成立しないなど、議院間の力関係は現在とは大きく異なっていました。憲法改正の過程において、衆議院の優越を確保しつつ、参議院の役割も考慮したバランスのとれた規定が模索されました。

関連条文

第59条は、予算、条約、内閣などの他の憲法規定と密接に関連しています。例えば、予算案の審議に関する第60条や、条約締結に関する第61条などは、立法府における権限分担を理解する上で重要な関連条文です。

現代的意義

第59条は、現代においても日本の立法府の運営に重要な役割を果たしています。衆議院の優越性を確保しつつ、参議院の意見を尊重する仕組みは、民主的な立法プロセスを維持するための重要な要素です。しかし、近年の政治状況において、この条文の解釈や運用をめぐる議論も活発に行われています。特に、衆議院の優越が過度に強調されることによる民主主義の歪み、参議院の役割の低下などの課題も指摘されており、今後の政治改革において、この条文の在り方が改めて検討される可能性もあります。

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