日本国憲法第60条

日本国憲法第60条：予算と衆議院の優越

日本国憲法第60条は、国の予算に関する重要な条文です。この条文は、予算案の提出と議決において、衆議院が参議院よりも優越的な地位を有することを定めています。具体的には、予算案はまず衆議院に提出され、衆議院で議決された後、参議院に送られます。

参議院は、衆議院で可決された予算案について、修正を加えることができます。しかし、その修正が衆議院で認められない場合、または参議院が一定期間内に議決を行わない場合、衆議院の議決がそのまま国会の議決とみなされます。この仕組みは、予算成立をスムーズに進めるための措置と言えるでしょう。

条文の詳細

条文は次の通りです。

予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。

予算について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取った後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

この条文からわかるように、予算案はまず衆議院で審議され、その後参議院に送られます。参議院が衆議院と異なる議決をした場合でも、両議院の協議会が開かれて意見の一致が見られない場合や、参議院が30日以内に議決しない場合は、衆議院の議決が優先されることになります。

歴史的背景

この条文は、日本国憲法制定の過程において、議会制度のあり方や、予算権限の在り方について、多くの議論が行われた結果、制定されました。

大日本帝国憲法下では、予算に関する規定は、衆議院の優越性を明確に示すものではありませんでした。しかし、戦後の新しい憲法制定においては、民主主義的な議会制度を確立するため、衆議院の予算権限を強化する方向で議論が進められました。

GHQ（連合国最高司令官総司令部）の草案においても、予算に関する条項は、衆議院の優越性を示唆するものでした。また、イギリスの議会制度を参考に、予算案の審議と議決において、衆議院が中心的な役割を担うことが検討されました。

憲法改正の過程における様々な草案や、マッカーサーノートなどからも、予算制度における衆議院の優越という考え方が、憲法制定に大きな影響を与えたことが分かります。

現代における意義

現在でも、この第60条は、日本の予算成立過程において重要な役割を果たしています。衆議院の優越的な地位は、政府と議会の関係、そして民主主義の在り方に関わる重要な問題です。

近年、予算案の審議において、衆参両院の対立が激化する場面も見られます。そのような状況において、第60条は、予算成立を遅らせることなく、円滑に進めるための重要な枠組みとして機能しています。しかし、一方で、参議院の役割や権限を過小評価するとの批判もあります。

この条文の解釈と運用については、今後も継続的な議論が必要であり、民主主義の健全な発展のために、衆参両院の関係を見つめ直すことが重要です。

関連条文

日本国憲法第60条と関連性の高い条文として、第88条（予算の歳出の承認）があります。この条文では、予算の歳出について、国会の承認が必要であると定められています。これらの条文は、互いに関連し合い、日本の予算制度の全体像を形作っています。

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