日本発狂

手塚治虫のSF漫画『日本発狂』：死後の世界と現実世界の交錯

手塚治虫によるSF漫画『日本発狂』は、1974年から1975年にかけて雑誌『高一コース』に連載された作品です。昼間はパン屋で働き、夜間は学校に通う青年、北村市郎が、ある夜、奇妙な人影の行列を目撃することから物語は始まります。それらは実体のない幽霊であり、市郎は恐怖に駆られて逃げ出します。

その体験を雑誌記者の本田に語る市郎。しかし、本田は翌日、交通事故で亡くなってしまいます。それから、死後の世界から本田の霊が市郎に語りかけるようになります。死後の世界では、霊魂のみの存在となり、そこで再び死を迎えると記憶を失い、赤ん坊として現世に生まれ変わるとのこと。

さらに驚くべきことに、死後の世界は三つの勢力に分かれ、互いに争いを繰り広げているというのです。近年増えているベビーブームは、この死後の世界の戦争で多くの霊魂が死んでいるからだと本田は説明します。死後の世界では戦力不足を補うため、現実世界で飛行機事故などを起こし、犠牲となった霊魂を訓練して戦場に送り込んでいるというのです。市郎が見た人影の行列も、まさに戦場に向かう霊魂だったのです。

本田の話を聞いた市郎は、本田の所属する雑誌編集部の編集長、下田波奈緒と共に、この事実を世に知らしめようとします。しかし、死後の世界にとって都合の悪い情報が広まることを恐れた彼らは、本田を幽閉し、市郎の魂を抜き取って死後の世界へと連れ去ります。

死後の世界で、市郎は戦争に反対するレジスタンスと出会います。そして、幽閉されていた本田を含む7850万2300人の幽霊たちと共に、現実世界への脱出を試みます。しかし、現実世界でも幽霊たちの受け入れは困難であり、彼らは最終的に人の住んでいない南米へと去っていくことになります。

物語の主人公、北村市郎はパン屋で働きながら夜学校に通う勤勉な青年です。幼い頃に死にかけた経験からか、幽霊を見たり霊的な能力を持っています。物語の中盤で死後の世界の死神に魂を抜き取られ、肉体は司法解剖されますが、彼は現実世界で生まれ変わることを望みます。

本田は市郎の体験を信じ、真実を解き明かそうとする熱心なジャーナリストです。死後も市郎を通じて死後の世界の情報を伝えようとしますが、その行動が原因で幽閉されてしまいます。彼は幽霊たちの代表者として日本政府と交渉し、南米への移住を決定します。

松本くるみは、死んだ兄を追って自殺した少女の幽霊です。死後の世界で戦争に行く兄を見送るため、現実世界に現れます。市郎と出会い、共に幽霊として暮らすことを望みますが、市郎の希望を受け入れ、赤ん坊として生まれ変わることを選択します。

下田波奈緒は本田の上司である編集長で、手塚治虫作品によく登場する下田警部をモデルにしたキャラクターです。市郎から話を聞き、死後の世界の存在を知るようになります。

エチゼンガニは市郎の夜学校の教師で、カニのような髪型が特徴です。栗原小巻の大ファンであり、その写真などを収集しています。死後の世界にも同名の重職者が存在します。

『日本発狂』は、単なるSF漫画にとどまらず、人間の生死、社会問題、そして希望について深く考えさせられる作品です。死後の世界の描写は衝撃的ですが、同時に人間の生命力やレジスタンス精神といった、希望の光も描かれています。手塚治虫の独特の世界観とメッセージ性が凝縮された、不朽の名作と言えるでしょう。

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