旧堀田邸

旧堀田邸：明治の面影を残す歴史的建造物

千葉県佐倉市に位置する旧堀田邸は、かつて佐倉藩主を務めた華族、堀田正倫伯爵によって明治時代に建てられた歴史的建造物です。正倫は明治維新を経て、最後の佐倉藩主、そして廃藩置県までの佐倉藩知事を務めた人物であり、その邸宅は明治期における旧大名華族の暮らしぶりや建築文化を今に伝える貴重な存在として知られています。

邸宅は1890年（明治23年）に完成しました。その建築には、日本の伝統的な和風建築技術である「つば造り」や「火打ち貫」といった工法と、ボルトやナットを用いた西洋建築の技術が同時に用いられており、明治という日本の近代化が進む過渡期における建築技術の融合をはっきりと見て取ることができます。このような特徴は、当時の建築様式の変化を知る上で非常に興味深い点です。

邸宅の周囲には、当時の有名庭師として名高かった珍珠園の伊藤彦右衛門が手掛けたとされる美しい庭園が広がっています。邸宅と庭園は一体となって、訪れる人々に安らぎと歴史の奥行きを感じさせてくれます。

旧堀田邸は、その歴史的・文化的な価値が認められ、様々な指定を受けています。庭園を含む一帯は、1997年（平成9年）に佐倉市の指定文化財（名勝）となり、2001年（平成13年）には千葉県の指定文化財（名勝）にも指定されました。そして、2006年（平成18年）7月には、建造物として国の重要文化財に指定されるに至ります。この際、住居部の主要な建物である座敷棟、居間棟、書斎棟、玄関棟、湯殿の合計5棟に加え、門番所と土蔵も同時に指定されました。さらに、庭園は2015年には「旧堀田正倫庭園」として国の名勝に指定されています。また、2008年には「旧堀田家住宅と庭園」が「ちば遺産100選」にも選定されており、千葉県の歴史遺産としても重要な位置づけがされています。

旧堀田邸が今日までその姿をとどめている背景には、市民による保存運動の存在があります。かつて邸宅の一部は日産財閥の結核対策機関に借地され、後に病院として使用されていましたが、1975年に売却計画が浮上しました。邸宅が市民の憩いの場としても親しまれていたことから、市の商工会や観光協会が中心となり、1982年には保存を求める署名運動が展開されました。この運動には、当時の市民の約3分の1にあたる約4万人もの署名が集まり、大きな市民の意思として示されました。これを受け、佐倉市は国庫補助を得て邸宅の買収に乗り出します。敷地の一部は1988年に老人ホームとして利用されることになりますが、庭園部分は「さくら庭園」と改称され、建物部分は千葉県で初めての緑の公益法人である「佐倉緑の銀行」が買収する方向で、市民の願いを叶える形で保存が決定されました。現在は佐倉市の所有となり、一般公開されています。

旧堀田邸は、その歴史的な価値だけでなく、美しい景観から、映画やドラマのロケ地としても活用されています。例えば、「侍戦隊シンケンジャー」では、主人公たちの本拠地として邸宅内外が撮影に使われました。

現在、旧堀田邸は佐倉市鏑木町274番地に位置し、一般に公開されています。開館時間は午前10時から午後4時30分（入館は午後4時まで）です。休館日は月曜日（休日の場合は翌日）、年末年始（12月28日～1月4日）、その他臨時休館日があります。入館料は一般大人320円です。

旧堀田邸は、明治時代の建築技術、美しい庭園、そして市民による保存運動の歴史という、様々な側面を持つ貴重な文化遺産です。佐倉市を訪れた際には、この歴史的な邸宅に足を運び、その魅力に触れてみてはいかがでしょうか。

もう一度検索