旧遷喬尋常小学校校舎

旧遷喬尋常小学校校舎：明治期の擬洋風校舎の傑作

岡山県真庭市（旧真庭郡久世町）に佇む旧遷喬尋常小学校校舎は、日本の近代建築史において重要な位置を占める歴史的建造物です。明治40年（1907年）に完成したこの木造二階建て校舎は、国の重要文化財に指定されており、明治後期に確立された学校建築の設計基準を体現する、独特の擬洋風建築様式を見事に示しています。設計を手掛けたのは江川三郎八氏です。

優美な外観と精緻な内部装飾

校舎は、中央棟と左右対称に配置された教室棟から構成されています。中央棟には玄関、職員室、そして2階に講堂が配置され、マンサード屋根と複雑な破風、そして正面中央には丸い屋根窓（ドーマー窓）が配されています。このドーマー窓には、かつて高瀬舟を模した校章が描かれていました。（なお、当初大棟にあった鉄の飾り（ルーフクレスト）は、戦時中に供出されたため現存しません。）

妻壁にはヴェネツィア窓風の格子窓が施され、外観に繊細なアクセントを加えています。内部もまた、贅を尽くしたつくりとなっています。2階の講堂は洋風の二重折上げ格天井で、鏡板には無節の檜柾目板が使用されています。廊下には分厚い松材、戸の板壁には全面無節の杉材が用いられるなど、建築材の選定にも細心の注意が払われています。さらに、軒下の壁を真壁として化粧筋交いを組み込んだり、床下換気孔をくさび型の煉瓦でアーチ型に積むなど、細部に至るまで、多くの建築意匠が施されている点が注目に値します。

約18,000円という莫大な工事費（当時の久世町予算の約3倍）が投じられたことからも、この校舎がいかに重要視されていたかが分かります。

文化施設としての再生

平成2年（1990年）に真庭市立遷喬小学校が移転するまで、この校舎は児童たちの学び舎として利用されてきました。その後、現在では文化施設である久世エスパスランドの付属施設として活用されています。かつての教室は図書室や展示室に、職員室は会議室に、そして講堂は集会室として生まれ変わり、校庭は屋外展示場として利用されています。

映画・テレビドラマのロケ地として

この歴史的建造物は、映画やテレビドラマのロケ地としても使用されてきました。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」では、主人公・鈴木一平が通う小学校として、またNHK連続テレビ小説「カーネーション」では、ヒロイン・小原糸子が通う岸城尋常小学校の教室として撮影に使用されています。さらに、テレビ東京の番組「出川哲朗の充電させてもらえませんか？」の収録も行われています。

建築概要

所在地：岡山県真庭市鍋屋17番1
構造形式：木造、二階建て
建築面積：601.2m²
屋根：スレート及び桟瓦葺
建築年代：1907年（明治40年）
重要文化財指定年月日：1999年（平成11年）5月13日

旧遷喬尋常小学校校舎は、明治期の日本の学校建築を代表する貴重な遺産であり、その歴史的価値と建築美は、多くの人々を魅了し続けています。

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