早場米

早場米（はやばまい） は、日本の稲作において、一般的な収穫・出荷時期よりも早いタイミングで市場に提供される米を指します。通常、多くの地域で米が収穫され市場に出回るのは10月以降ですが、早場米は主に9月には出荷が始まります。この早期出荷には、気候的な要因と経済的な要因の二つの主要な理由があります。

まず、最も重要な理由の一つとして、秋季の気候変動によるリスクを回避することが挙げられます。稲が成熟し収穫期を迎える秋は、日本各地で台風や長雨、洪水などの悪天候に見舞われる可能性があります。これらの気象災害は、収穫間際の稲に大きな被害をもたらし、収穫量の減少や品質の低下を招くリスクがあります。
例えば、利根川下流に広がる水郷地帯では、秋季に発生しやすい河川の氾濫による洪水被害を避けるため、稲を早めに収穫する必要があります。また、北陸地方のように秋に長雨が多い地域では、雨による収穫作業の遅延や稲の品質劣化を防ぐため、梅雨明け後の日照を活用して生育を早め、秋の長雨が本格化する前に収穫を終えるといった工夫がなされています。このように、地域の気候特性に合わせて収穫時期を前倒しすることで、自然災害による被害を最小限に抑え、安定した米生産を目指すのが早場米栽培の大きな目的です。

気候要因に加え、経済的な理由も早場米の普及を後押ししています。消費者は保存性の高い米であっても、収穫されたばかりの新米を好む傾向にあります。新米は風味が豊かで食味も優れているため、商品としての価値が高くなります。早場米として市場に出荷することで、この「新米ブランド」を早期に活用し、高い価格で販売する機会を得ることができます。また、一般的な米の出荷が始まる前の端境期に市場に供給することで、需給のバランスから価格が高くなっている時期に出荷できるというメリットもあります。品質の高い新米を早期に提供することは、生産者の経営安定にも繋がります。

早場米として栽培される代表的な品種の一つに、日本で最も広く栽培されているコシヒカリがあります。コシヒカリは、他の多くの主力品種に比べて比較的早い時期に成熟する特性を持っており、これが早場米としての栽培に適しています。一般的なコシヒカリの収穫は9月下旬から10月にかけて行われますが、早場米として栽培される場合は、これより約1ヶ月早く、8月終わり頃から収穫が始まります。そして、稲作の目安となる二百十日や二百二十日（立春から数えて210日目、220日目の頃で、一般的に稲の成熟期や台風襲来の目安とされる）を迎えるよりも前に収穫を終えることが目指されます。

さらに、日本の稲作には早場米よりもさらに早く収穫を行う超早場米という手法も存在します。超早場米は主に九州南部、特に鹿児島県などで見られます。この地域では、温暖な気候を活かして、一般的な田植え時期よりもかなり早い2月から3月にかけて田植えを行います。そして、稲が成熟する7月にはもう収穫・出荷が開始されます。超早場米栽培の主な理由は、九州地方に夏から秋にかけて多く接近・上陸する台風の影響を最大限に避けるためです。台風シーズンが本格化する前に収穫を終えることで、甚大な被害を受けるリスクを大幅に軽減しています。このように、超早場米は、その地域の厳しい気象条件に対応するための高度な栽培技術と言えます。

早場米および超早場米は、単に収穫時期を早めるだけでなく、地域の気候リスクを回避し、市場のニーズに応えるための日本の稲作技術の進化を示しています。これらの栽培手法は、生産者の経営を安定させ、消費者に早期に新米を届ける重要な役割を果たしています。

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