早春 (1956年の映画)

『早春』は、1956年に公開された小津安二郎により監督された日本映画で、彼の47作目に当たります。この作品は、東宝の主演俳優池部良と淡島千景、そして松竹の次代のスター岸惠子が共演し、視覚的に新しい味わいを持つ映画として位置づけられています。本作は、戦後の遺恨が残る東京を背景に、若いサラリーマン夫婦の関係や周囲の人々との相互作用を描写しています。

物語は、東京蒲田に住むサラリーマン正二（池部良）と妻の昌子（淡島千景）の生活から始まります。彼らは共働きではあるものの、かつての子供を疫痢で失った悲劇から、心の距離が徐々に広がっていく様子が描かれています。この不穏な関係の中、正二は通勤仲間の金子千代（岸惠子）と一夜を共にするという事件が発生し、昌子は夫を責めて家を出ていく決断を下します。正二は部長から岡山県三石への転勤を告げられると、心の中で葛藤しつつも一人で赴任することに決めます。

映画の流れは、単身で三石に赴いた正二が、その後昌子と再会し、夫婦としての絆を再構築しようとする過程を中心に進んでいきます。夫妻の関係は一時的に離れ離れになりますが、新たな地でお互いを理解しあうことで、彼らは関係の再生を果たします。このように、映画は戦後の日本における個人の苦悩や、人間関係のデリケートな部分に焦点を当て、特に新しい時代の社会における人々のつながりと再生を描き出しています。

監督の小津は、本作を作るにあたり、1954年から1955年にかけて映画制作が空白となった経験を経て、1956年に新しい試みとして『早春』に取り組みました。この映画は、小津が自身の独特の映像美を追求しながらも、戦後の日本社会の変化を反映させたものとなっています。また、作品の特徴的な点として、彼が長年にわたり使用してきた馴染み深いキャストから離れ、新たに岸惠子という女優を起用したことも挙げられます。これにより、観客に新鮮で斬新な印象を与えると同時に、小津映画の新たな局面を開きました。

映画『早春』は、上映時間が2時間24分と、他の小津作品の中でも最も長いものとなっており、彼の構想した作品の深さと幅広さを物語っています。同じく本作からは、小津が尊敬していた里見弴の息子でもある山内静夫がプロデューサーとして名を連ねているなど、彼の映画制作における新しいつながりを示しています。さらに、映画が19世紀の終盤から高まる経済成長の背後にある人々の感情の葛藤を見事に具現化し、現代の視点からもその価値が再認識されています。これにより『早春』は、冠するにふさわしい重要な作品となり、一見の価値がある作品となっています。

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