早瀬猛

早瀬 猛（はやせ たけし）は、プロ野球界からボートレースの世界へと舞台を移し、二つの異なるプロフェッショナルスポーツでキャリアを築いた、日本の稀有な人物です。競艇選手としては、登録名を 早瀬 薫平（はやせ くんぺい）と改めています。

早瀬氏は岡山県に生まれ、学生時代は玉島商業高校で過ごしました。スポーツ、特に野球に打ち込んだ時期があったと思われます。

プロ野球選手としてのキャリアは、短くも激動でした。昭和22年（1947年）、22歳という若さで岡山鉄道局から阪急ベアーズに入団。この年は日本のプロ野球が再編期を迎えていた時期であり、所属球団である阪急ベアーズもシーズン途中で阪急ブレーブスへと名称を変更するなど、変化の多いシーズンでした。早瀬氏もまた、同じ年のうちに国民野球連盟に所属していた結城ブレーブスへと移籍しており、短い期間に異なるチームでのプレーを経験しています。この野球選手としての活動は、彼の長いキャリアの序章となりました。

野球選手としての道を終えた後、早瀬氏が選んだのは、水上の格闘技とも称される競艇でした。これは当時のプロスポーツ選手としては極めて珍しい、大胆なキャリアチェンジと言えるでしょう。昭和28年（1953年）に競艇選手として正式に登録され（登録番号757号）、新たなプロフェッショナルとしての第一歩を踏み出しました。そして、この競艇選手としての活動を開始した後、彼は登録名を 早瀬 薫平 と改名しました。この名前で、多くのレースに出場し、競艇選手としての実績を積み重ねていくことになります。

選手として円熟期を迎えた昭和38年（1963年）頃、早瀬（薫平）氏は主に群馬県の桐生競艇場を拠点として活動していました。この時期、彼は競艇選手としての実力を遺憾なく発揮し、数々のレースで活躍を見せました。特に記録に残る功績として、同年に行われた第9回関東地区選手権大会での準優勝が挙げられます。地区選手権という権威あるレースでの2位入賞は、彼の選手としての高い実力を証明するものです。

早瀬氏のプロ野球選手から競艇選手への転身というキャリアパスは、その後の日本のプロスポーツ界において、長らく唯一無二の事例として語り継がれてきました。他のプロスポーツ、特に認知度の高い野球からの異分野への挑戦は、当時のアスリートにとっては想像もつかないほどの決断であったと推測されます。しかし、令和4年（2022年）になり、元プロ野球選手の野田昇吾氏がボートレーサーに転向したことで、この歴史的な事例が再び注目されることとなりました。野田氏のケースは、早瀬氏が1953年に競艇選手登録をして以来、実に69年ぶりのプロ野球選手からのボートレーサーへのキャリアチェンジであり、早瀬氏がいかに先駆的な存在であったかを改めて浮き彫りにしました。早瀬 猛（薫平）氏は、異なるプロスポーツの世界で自らを再定義し、成功を収めたパイオニアとして、日本のスポーツ史にその名を刻んでいます。

もう一度検索