明日へ 戦争は罪悪である

戦争は罪悪であると訴えた僧侶の物語

2017年に公開された日本映画『明日へ 戦争は罪悪である』は、第二次世界大戦中の困難な時代にあっても、戦争の罪悪を訴え続けた一人の僧侶の孤高な生き様を描いた感動的な作品です。この物語の主人公である僧侶像は、平和活動家としても知られる実在の僧侶、竹中彰元氏に着想を得て創造されています。

物語は、現代に近い2015年の秋から始まります。高齢者施設で静かな晩年を過ごす98歳の元落語家、金山亭我楽こと尾藤純次。彼はテレビのニュースで、安全保障関連法案に反対する人々のデモ行進を目にし、遠い過去に特別な存在だった一人の僧侶の姿を鮮やかに思い起こします。それは、彼がまだ若かった頃、人生の岐路で導きを与えてくれた恩人でした。

純次の回想は、彼がまだ13歳だった昭和初期へと遡ります。場所は瀬戸内海に浮かぶ小さな島。幼い頃から落語をこよなく愛し、将来は噺家になることを夢見ていた純次少年。彼の父親は、息子の落語への熱中ぶりを案じ、学業に専念させるよう島にある寺の住職、杉原良善に諭してもらおうと相談を持ちかけます。しかし、良善は父の期待とは裏腹に、純次の落語への情熱を認め、むしろその道に進むよう励まします。この出会いが、純次の人生を大きく方向づけることになります。

その後、純次は上京して念願の落語家となり、芸を磨きます。時は流れ、昭和14年。二十歳を迎えた純次に徴兵令状が届き、戦地へ赴くことが決まります。出征を前に、故郷の島で催される出陣式に出席するため、彼は六年ぶりに島へ帰省します。かつての恩師である住職、良善との再会を果たした純次。出陣式の場で、良善は軍服姿の純次を前に、祝辞を述べる立場でありながら、集まった島民たちの前で予期せぬ言葉を発します。

良善は突然、「戦争とは罪悪そのもの、人類全体の敵である。いますぐにでも止めるべきだ。」と断じ、集まった人々、そして純次に向かって「逃げ帰ってこい。人殺しをしてはならない。」と強く説き始めたのです。それは、当時の社会状況においてあまりにも異質な、そして危険な思想でした。それまで国策に沿った教えを説いていたはずの良善の豹変ぶりに、純次は大きな困惑を覚え、強く反発心を抱きます。国の命令に従い、戦地に赴く覚悟を固めていた純次にとって、良善の言葉は理解しがたいものでした。

この出来事を機に、良善は孤立無援の状況に追い込まれます。戦争へと突き進む時勢の中で、反戦の意思を公然と表明した良善は、島の人々をはじめ、周囲から激しい非難と迫害に晒されることになります。「非国民」「国賊」と罵られ、寺には石が投げられ、家族も苦境に立たされます。それでもなお、良善は自らの信念を曲げず、戦争の悲惨さと無益さを訴え続けます。

映画は、こうした良善の揺るぎない信念と、それに対する社会からの圧力、そして弟子の純次との複雑な関係性を丁寧に描き出します。戦時下という閉鎖的な環境の中で、ただ一人「戦争は罪悪である」と声高に叫び続けた僧侶の姿を通して、国家という大きな力と個人の思想・良心との対立、あるいは同調圧力の中で信念を貫くことの困難さ、そして真の勇気とは何かを観る者に問いかけます。

この作品は、単なる歴史ドラマに留まらず、現代社会にも通じる普遍的なテーマを含んでいます。権力に盲従することなく、自らの目で物事を見極め、間違っていることには「間違っている」と声を上げる勇気。それは、時代を超えて私たち一人ひとりが向き合うべき課題です。

『明日へ 戦争は罪悪である』は、杉原良善を中原丈雄が演じ、尾藤純次の青年期を小倉レイ、老年期を岡本富士太が演じるなど、実力派俳優陣が脇を固め、良善の妻役には平岡衣津子、少年期の純次役には松田優佑らが出演しています。この映画は、過去の歴史を通して、戦争の悲惨さを忘れず、平和への強い願いを新たにする機会を与えてくれるでしょう。

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