星野愷

星野愷（ほしの やすし）：電気化学と磁気記録のパイオニア

星野愷（1909年6月18日 - 1986年7月25日）は、日本の電気化学者であり、東京工業大学名誉教授として知られています。彼は、人造偏光板と磁気記録媒体の開発において顕著な業績を上げ、特に日本初の塗布型磁気テープを作製したことで「磁気テープの父」と呼ばれています。彼の多岐にわたる研究は、エレクトロニクス材料化学、固体電気化学、そして視聴覚教育の分野に大きな影響を与えました。

生い立ちと学歴

星野愷は、群馬県勢多郡黒保根村（現在の桐生市黒保根町）で生まれました。1934年3月に東京工業大学（旧制）電気化学科を卒業後、同大学で助手、助教授を経て1953年11月に教授に就任しました。1945年には工学博士の学位を取得しています。1970年3月に東京工業大学を定年退官し、同大学名誉教授となりました。

研究業績

星野の研究は、人造偏光板（偏光フィルター）と磁気記録媒体の二つの主要な分野に分けられます。

人造偏光板（偏光フィルター）

星野は、日本における人造偏光板の研究の先駆者であり、その製造方法、偏光のメカニズム解明、そして応用方法の研究に取り組みました。1938年には、彼の研究を基に日本初の偏光板が製造され、第二次世界大戦中には、海軍が潜水艦の発見に偏光眼鏡を大量に採用しました。星野は、ヘラパタイト微結晶を用いた多[[結晶]]型偏光板、そして高分子フィルムを用いた高分子型偏光板の研究を推進しました。また、紫外線フィルターの発明にも貢献し、ウラン鉱石の鑑別に役立つ技術を開発しました。偏光板の応用研究では、湾曲偏光板や偏光立体映写装置の開発も行いました。

磁気記録媒体

星野は、フェライトを応用した磁気記録媒体の研究を日本で初めて本格的に開始しました。1932年にはフェライト円盤を用いた磁気記録研究を行い、1948年には日本初の塗布型磁気テープを作製し、音声記録に成功しました。これは、マグネタイト粉末をバインダーに分散させて紙に塗布したものでした。その後、ガンマ酸化鉄微粒子を用いることで記録特性が大幅に向上することを見出し、1951年に発表しました。この研究は、日本の磁気記録技術の発展に大きく貢献しました。

視聴覚教育用磁気シートレコーダー

磁気テープの開発後、星野は視聴覚情報の伝達に磁気記録を利用する研究を開始しました。1954年から視聴覚教育用「磁気録音読書機」（シートレコーダー）の開発に着手し、1957年に完成しました。この装置は「シンクロリーダー」として商品化され、ブリュッセル万国博覧会でプレス部門の金賞を受賞しました。この開発過程では、録音済みシートの複製技術である接触磁気転写法も考案され、高密度磁気記録材料開発の先駆けとなりました。

社会貢献と受賞歴

星野は、科学技術教育の発展にも大きく貢献し、多くの委員会で委員長を務めました。また、1978年に加藤記念賞を受賞し、1981年には勲三等旭日中綬章を授与されました。2005年には、出身地である群馬県桐生市黒保根町の名誉村民に選ばれました。

人物像

星野は、その温厚な人柄と教育熱心さから、多くの学生や研究者から尊敬を集めていました。東京工業大学の研究室では、昼食会や茶会を通じて、グローバルな視点とオリジナリティの重要性を説いていました。また、趣味にも造詣が深く、アマチュア無線や天体観測にも情熱を注いでいました。

年譜

1909年：群馬県勢多郡黒保根村に生まれる
1934年：東京工業大学電気化学科卒業
1934年：東京工業大学助手
1940年：東京工業大学助教授
1945年：工学博士号取得
1953年：東京工業大学教授
1970年：東京工業大学名誉教授
1978年：加藤記念賞受賞
1981年：勲三等旭日中綬章受章
1986年：逝去

結論

星野愷は、電気化学と磁気記録技術の発展に多大な貢献をした日本の科学者です。彼の研究成果は、現代の電子機器や情報伝達技術の基礎となり、その功績は永く語り継がれるでしょう。

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