春信風島田

元禄時代に女性たちの間で広く結われた特徴的な髪型に「春信風島田」、あるいは「元禄島田」と呼ばれるものがあります。これは、今日知られる多様な島田髷の系統の中でも、特に古い時代に形作られた一種の原型と言えるスタイルです。かつて男性の結い髪であった髷の面影をかすかに残しながら、女性の髪型として独自の発展を遂げた初期の形の一つです。

流行とその担い手

この髪型は、元禄という活気あふれる時代背景の中、特に十代半ばの若年層、中でも接客業などに携わる女性たちに大変好まれました。当時の流行の最先端を行く彼女たちによって、このスタイルは広く普及したと考えられます。

名称の由来

なぜ「春信風」と呼ばれるのでしょうか。その名は、江戸時代中期の浮世絵師であり、美人画の名手として名高い鈴木春信に由来します。春信が描く優美な女性像、特に若々しい娘たちの髪型として、このスタイルが頻繁に登場することから、「春信風」という冠がつけられました。春信の絵を通じて、この髪型の清楚でありながらも魅力的な印象が、当時の人々に広く認識されていたのでしょう。

特徴的な結い方

元禄島田は、それ以前に見られたやや野性味の残る大島田を、より洗練させたスタイルとして登場しました。その特徴をいくつか挙げることができます。

• - 鶺髒たぼ（せきれいだぼ）：特に、後頭部の「たぼ」と呼ばれる部分が反り上がるように結われるスタイルは、その形が鳥の鶺髒の尾に似ていることから「鶺髒たぼ」と呼ばれました。この鶺髒たぼを持つ元禄島田は、まさに鈴木春信の絵に描かれる女性たちのイメージと強く結びつき、「春信風島田」と称されることもあります。この反り上がったたぼが、後姿に独特の優雅さと軽やかさを与えていたと考えられます。
• - 髷の位置と形状：髷の全体的な位置は、顔の前方から見てやや低めに結われます。髷自体は、後世に発展する島田髷に比べると、長さが短く、よりふっくらとして太い形状をしています。
• - 髷の角度：髷が水平に近い角度で結われているのも大きな特徴です。後の時代になるにつれて髷は徐々に上方へ持ち上げられ、角度がついていきますが、元禄島田においては、まだ地面と並行に近い落ち着いた姿をしています。
• - 根元の位置：髷の根元、つまり頭に接する部分も、まだ頭頂部に向かって高く引き上げられてはおらず、比較的低い位置に留まっています。

島田髷の歴史における位置づけ

これらの特徴は、島田髷が男性の立烏帽子姿の髷から派生し、徐々に女性の髪型として独自の進化を遂げていく過渡期の様子をよく示しています。男性的な力強さを残しつつも、女性らしい繊細さや時代の流行を取り入れ、洗練されたスタイルへと変化していく過程で、元禄島田は重要な役割を果たしました。島田髷の多様な発展の礎となった、歴史的に意義深い髪型と言えるでしょう。

出典

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