春藤流

春藤流について

春藤流（しゅんどう-りゅう）は、かつて存在した能楽ワキ方の重要な一流派であり、現在は廃絶しています。能楽とは、日本の伝統的な舞台芸術であり、特に能の中で重要な役割を持つ「ワキ」として知られる流派です。春藤流は金春流の座付のワキとして活動し、その後、下掛宝生流が枝分かれしていく過程で大きな影響を与えました。

流派の詳細については、初世とされる人物に関していくつかの説がありますが、一般的には春藤六郎次郎長慶とされています。彼は金春流の脇の仕手である金春源七郎に学び、春藤流の基盤を作り上げたと言われています。長慶が金春流の伝統を受け継ぎつつ、新たな流派を開いたことが、春藤流の成立に大きく寄与しています。

また、春藤流はワキ方高安流の初世高安重政が師事していたことでも知られています。これにより、春藤流はワキ方の中でも特に下掛り系統の流派としての位置を確立しました。流派が存続する過程において、春藤流はその後の能楽の発展にさまざまな影響を与えてきました。

春藤流は陶冶された名人たちを輩出しました。例えば、三世道覚は名人として知られ、その特徴的な姿から「髭春藤」とのあだ名がつけられました。さらに、四世寿朴の代には、徳川綱吉の命により弟権七（のちの祐玄）が新たな家を起こし、下掛宝生流を興すこととなります。このように、春藤流は多くの流派に分岐しながら、その影響を広げていきました。

春藤流の歴史は栄光と共に衰退の坂を辿ります。明治維新後、春藤流の流れを引き継ぐことができる後嗣が欠き、十二世春藤高明が1893年に亡くなると、彼の門弟である鏑木祚胤がその伝書や伝来品を保管し、流派の存続に努めました。しかし、1922年にはその後継者の建男が宗家代理として活動したものの流派の勢いは衰え、役を務めることが難しくなってしまいました。こうして、春藤流は下掛宝生流に転じたことで完全に廃絶しました。

ただし、春藤流の名は完全に消え去ったわけではありません。宮城県大崎市の大貫地区では、春藤流の流れをくむ謡が現在も保存されています。このように、流派が廃絶しても、伝統文化は地域で生き続けることがあります。このような現状は、春藤流が持っていた歴史的意義や影響を改めて考えさせられるものです。

春藤流の関係文献としては、『能楽全書』（東京創元社）、『能・狂言事典』（平凡社）、『岩波講座 能・狂言』（岩波書店）などがあります。これらの資料を通じて、春藤流の背景や流派の特徴を理解することができます。

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