昨日・今日・明日

『昨日・今日・明日』：社会風刺と人間ドラマが織りなすイタリア映画の名作

ヴィットリオ・デ・シーカ監督による1963年公開のイタリア映画『昨日・今日・明日』（原題: Ieri, Oggi, Domani）は、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した名作です。ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニという、イタリア映画を代表する豪華キャストの共演も見どころの一つとなっています。

本作は「ナポリのアデリーナ」、「ミラノのアンナ」、「ローマのマーラ」の3つのエピソードで構成されるオムニバス形式の作品です。それぞれのエピソードは独立した物語でありながら、貧困、裕福、信仰という異なる背景を持つ女性たちの生き様を通して、イタリア社会の断面を描き出しています。軽妙なタッチとシニカルなユーモアが随所にちりばめられ、観客を飽きさせません。

「ナポリのアデリーナ」では、貧しいながらも夫を支えるアデリーナ（ソフィア・ローレン）の姿が描かれています。失業中の夫カルミネ（マルチェロ・マストロヤンニ）に代わり、闇タバコの売買で生計を立てています。ある日、未払いの罰金を徴収に来た役人を追い払ったことで逮捕の危機に瀕しますが、弁護士の助言から意外な方法で窮地を脱しようとします。このエピソードでは、貧困と不正、そして人間の機転とたくましさといった要素が複雑に絡み合っています。

「ミラノのアンナ」では、裕福な生活を送るものの、心の満たされないアンナ（ソフィア・ローレン）が主人公です。彼女はパーティーで出会った青年レンツォ（マルチェロ・マストロヤンニ）とドライブに出かけ、そこで自身の孤独や不満を打ち明けます。華やかな生活の裏側に潜む虚無感や、自由への憧れといったテーマが描かれています。このエピソードでは、物質的な豊かさとは異なる心の充足という問題が浮き彫りになります。

「ローマのマーラ」では、神学生のウンベルト（ジャンニ・リドルフィ）とコールガールのマーラ（ソフィア・ローレン）の物語が展開されます。ウンベルトはマーラに一目惚れしますが、彼の祖母はマーラを快く思わず、二人の関係に反対します。このエピソードでは、信仰と現実、伝統と現代といった対立構造が描かれています。マーラの純粋さと優しさは、社会の偏見や固定観念に挑戦するかのようです。

これらの3つのエピソードを通して、『昨日・今日・明日』は、異なる社会階層や価値観を持つ人々の生き様をユーモラスかつ繊細に描き出しています。時代を超えて普遍的なテーマを扱いながらも、イタリア社会特有の文化や風俗を巧みに織り交ぜている点が、この映画の魅力です。ソフィア・ローレンの圧倒的な存在感と、マルチェロ・マストロヤンニの軽妙な演技も相まって、観る者を魅了する作品となっています。

なお、テレビ放送においては、エピソードの構成が変更された経緯があります。『金曜映画劇場』では「ミラノのアンナ」がカットされ、別のストーリーが追加された3話形式で放送されました。その後、『月曜ロードショー』では「ミラノのアンナ」が加えられ、4話形式での放送が行われました。この点も、本作の歴史において興味深い点と言えるでしょう。

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