昭和62年台風第12号

1987年（昭和62年）8月、日本に接近し、特に西日本に大きな影響をもたらした台風に「昭和62年台風第12号」があります。国際名は「Dinah（ダイナ）」と呼ばれました。

台風の発生と発達

この台風は8月22日午前9時、グアム島の南遥か海上で発生しました。発生当初は時速20km前後の速さで西へ進んでいましたが、24日には進路を西北西に変更し、次第に勢力を強めていきました。25日午前3時には中心気圧960hPa、中心付近の最大風速40m/sとなり、「並の勢力」ながらもまとまった台風へと成長。その後も勢力を増しながら北西に進み続け、26日午後9時には中心気圧915hPa、中心付近の最大風速50m/sに達し、「大型で非常に強い台風」という、その年でも屈指の勢力にまで発達しました。

複雑な進路

「非常に強い」勢力を維持したまま、台風はゆっくりとした速度で北西へ進みました。29日午前3時からはやや速度を上げ、時速15kmで北北西へ進路を変え、同日午後9時には沖縄県の宮古島の東およそ80kmの海上を通過して東シナ海へ入りました。東シナ海を北上中も勢力は衰えず、大型で非常に強い台風として進み続けました。30日午前9時には鹿児島県奄美大島の西およそ350kmの海上を通過し、午後3時過ぎには北緯30度を超えました。北緯30度線を通過後は急速に速度を上げ、時速35kmで北北東へ進路を変えました。31日午前0時には長崎県五島市の西およそ90kmの海上を通過し、午前4時頃には長崎県対馬のごく近くの西海上を北東へ進みました。

その後、台風は日本海を北東へ進み続け、31日午後9時には秋田県沖に達して温帯低気圧へと性質を変えました。温帯低気圧となった後もその残骸は勢力を保ち、9月1日には北海道宗谷地方を通過し、日本列島から遠ざかっていきました。この台風は、その記録が残る中で、北海道宗谷地方を通過した唯一の台風として特筆されています。

広範囲にわたる暴風と被害

この台風の進行方向の右側にあたる「危険半円」が九州地方を広く覆ったため、各地で記録的な暴風となりました。特に九州北部沿岸部では風が強く、福岡市では観測史上最大となる最大瞬間風速49.3m/sという猛烈な突風を観測しました。これは、その後4年後の平成3年台風第19号をも上回る記録でした。他にも、長崎県対馬市厳原で52.2m/s、島根県隠岐の島町西郷で46.1m/s、下関市で42.2m/s、佐賀市で43.3m/sなど、九州や中国地方の沿岸部を中心に各地で極めて強い風が観測されました。

この台風による被害は、主にこの猛烈な暴風によってもたらされました。全国で死者8名、負傷者189名の人的被害が確認されました。特に長崎県の福江島では、暴風により歴史的な建造物である井持浦天主堂や旧立谷教会の建物が倒壊するなど、文化財にも被害が及びました。暴風による建物の損壊や農作物への被害なども広範囲に発生し、多くの地域で生活に深刻な影響が出ました。

昭和62年台風第12号は、その非常に強い勢力と、特に九州地方にもたらした記録的な暴風、そして特異な進路（北海道宗谷地方通過）によって、日本の気象災害史において記憶されるべき台風の一つです。

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