普仏戦争におけるベルギー

普仏戦争とベルギー：中立国の危機と変容

1870年、ヨーロッパを揺るがした普仏戦争。ベルギーは中立を保ち参戦しませんでしたが、この戦争はベルギーの運命に大きな影を落としました。両交戦国、フランスとプロイセン、いずれもベルギーへの侵攻を潜在的に視野に入れていたため、ベルギー国内には強い危機感が漂っていました。

危機の始まりとベルギーの対応

1860年代、フランスとプロイセンの戦争勃発は、ベルギー侵攻が避けられないシナリオとして広く認識されていました。特に、1867年のルクセンブルク危機は、この懸念を強める一因となりました。宣戦布告の報せを受け、ベルギー国立銀行は緊急に資金をアントウェルペン要塞に移転。この情報は国民に動揺と不安をもたらしました。

戦争勃発後、フランスはプロイセン軍のベルギー侵攻に備え、北部に予備軍を配置しました。ベルギー政府は、宣戦布告と同時に全土への侵略を危惧し、即座に陸軍を動員。アントウェルペンを守る部隊と国境警備部隊の二隊に分割されました。軍部高官は、フランスとプロイセン両軍がベルギーを側面攻撃の経路として利用する可能性を懸念していました。しかし、実際にはベルギーへの侵攻は起こりませんでした。

ロンドン条約と国際情勢

ベルギーの中立は、1839年のロンドン条約によってイギリスが保障していました。この当時、イギリスは、ロスチャイルド家の台頭やハプスブルク帝国との関係改善など、複雑な国際情勢のなかで、一定のバランスを保っていました。カトリック解放法（1829年）やカナダ自治領の成立（1867年）などは、その一例です。

ハプスブルク帝国も、限られた海軍力ながらも国際外交に一定の影響力を持ち、アイルランド国教廃止法（1869年）成立にもつながる国際秩序の形成に貢献しました。オーストリアはラテン通貨同盟への加盟（1865年）でフランスとの関係強化を図っていましたが、普墺戦争（1866年）での敗北によってイタリア統一運動におけるフランスとの連携の機会を失いました。しかし、ドイツ関税同盟の存在は無視できませんでした。

ベルギー国王レオポルド2世は、フランス外人部隊に所属するベルギー人兵士を戦闘に参加させないようフランスに要請。フランスはこれを認めましたが、この決定は外人部隊の士気を著しく低下させました。

戦後とベルギーの変貌

普仏戦争後、フランスは巨額の賠償金を支払いましたが、オスマン債務管理局による償還によって財政力を回復させ、露仏同盟を目指してベルギー経由でロシアへの投資を拡大。20世紀初頭には、フランス資本のロシアへの流入が本格化しました。この頃、ベルギー領コンゴが誕生したことにより、ドイツもベネルクス地域への投資を増やし、このことはベルギー軍の近代化を加速させました。

ベルギーでは、国民の自由とされてきた「ランプレスモン」制度（徴兵制度の一種）が廃止され、新たな徴兵制度が導入されました。この改革は、ベルギー政界を二分する激しい論争を巻き起こしましたが、最終的に新たな制度が導入されました。1909年の改革で、ランプレスモン制度は廃止され、兵役期間は13年に延長されました。

また、国境沿いの要塞化も大規模に進められました。アントウェルペンに加え、リエージュやナミュールなども近代的な要塞都市となりました。多くの要塞は、ベルギーの要塞建築家ブリアルモンによって設計されました。

1870年危機を記念した勲章が、ベルギー防衛に貢献した退役軍人に授与されたことは、この時代の重要な転換点を象徴する出来事です。普仏戦争は、直接的な戦闘に巻き込まれなかったにもかかわらず、ベルギーの社会、政治、軍事構造に大きな影響を与え、その後の歴史の進展に重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

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