普請中

普請中

森鷗外の短編小説『普請中』は、1910年に発表された作品です。日露戦争後の日本を舞台に、過去の恋人との再会と、主人公の葛藤を描いています。

あらすじ

雨上がりの夕暮れ、参事官の渡辺は、普請中の西洋料理店を訪れます。そこで彼は、かつての恋人であるドイツ人女性と再会します。彼女は、ロシアのウラジオストクから渡辺に会うためにやってきました。彼女は、今はロシア人の情夫と共に歌を歌いながら旅をしている身です。

渡辺は彼女に今後のことを尋ねますが、彼女は「日本は駄目だ」と言い、アメリカへ行くことを考えています。渡辺は、未完成な日本を「普請中」であると表現し、彼女にアメリカ行きを勧めます。女性が親密な関係を求めますが、渡辺はそれを拒絶し、冷淡な態度で接します。

二人は食事をしますが、渡辺は昔話に耳を傾けず、そっけない態度を崩しません。最後に、彼はシャンパンで彼女の情夫に乾杯し、女性は寂しげに去っていきます。

作品の背景と解釈

本作は、鴎外自身の体験が元になっています。過去にドイツ留学時代の恋人と別れた経験を基にしていますが、実際に恋人が日本を訪れたという出来事を題材に、もし彼女が来たならば、という仮定のもとに書かれたフィクションです。

主人公の渡辺は、鴎外自身を投影した人物ですが、『舞姫』の主人公である太田豊太郎とは異なり、冷淡な態度が際立っています。作中で繰り返される「普請中」という言葉は、近代国家として発展途上であった当時の日本の状況を象徴しています。未完成で不均衡な日本の姿は、店内の調度品や給仕の態度など、細部にまで描かれています。

渡辺が「ここは日本だ」と恋人を拒絶する背景には、日本の未熟さや、西洋との間に存在する越えられない壁があると考えられます。その冷たい態度の裏には、寂しさや物足りなさが漂っており、読者はそこに鴎外自身の哀愁を感じ取ることができます。

まとめ

『普請中』は、明治期の日本の社会情勢と、主人公の複雑な心情を描いた作品です。「普請中」という言葉に込められた意味を深く読み解くことで、作品のテーマをより深く理解することができます。

*参考文献

• - 『鴎外選集 第2巻』石川淳 編、岩波書店 1978年
• - 新版『鴎外近代小説集 第2巻』岩波書店、2012年

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