最急行

最急行：日本の鉄道史における速達列車の黎明期

日本の鉄道黎明期において、「最急行」は特急列車の前身として重要な役割を果たした列車種別です。本稿では、最急行の運行状況や歴史的背景、各鉄道会社における事例、そしてその後の発展について詳細に解説します。

山陽鉄道における最急行

1899年、山陽鉄道は神戸駅（または京都・大阪）～三田尻駅間において、急行列車4往復を設定しました。そのうち神戸駅午後0時40分発の1本が「最急行」と名付けられ、これが最急行の初運行とされています。その後、1901年の神戸～馬関駅（現・下関駅）間全線開業に際しては、京都～馬関駅間を結ぶ昼行列車にも最急行が設定されました。これらの最急行は、他の急行列車と比較して大幅な時間短縮を実現し、当時としては驚異的な表定速度を誇っていました。これは、瀬戸内海航路との競争激化という背景の中で、より速く、そして快適な輸送サービスを提供しようという山陽鉄道の意欲の表れと言えるでしょう。なお、当時の優等列車は現代のような特別料金は徴収されておらず、純粋な速達サービスの提供が目的でした。1905年には、最急行をさらに発展させた「最大急行」が登場しています。日露戦争の影響で一時廃止されましたが、1906年に復活しました。

官設鉄道（国鉄）における最急行

官設鉄道（後の国鉄）では、1905年12月27日、新橋～横浜間を結ぶ速達列車として最急行が初めて設定されました。ノンストップ運行で、全区間をわずか27分で走破するという、当時としては驚異的なスピードを誇っていました。翌1906年には、新橋～神戸間にも最急行が設定され、これは日本で初めて急行料金を徴収する列車となりました。最新のD12形蒸気機関車（後の国鉄6400形）を使用し、客車4両編成で運行されました。その後、山陽鉄道の国有化に伴い、1912年には運転区間が下関駅まで延長され、日本初の「特別急行列車」へと発展していきました。

京阪電気鉄道における最急行

京阪電気鉄道も、1914年から天満橋～五条間を無停車で走る急行電車を運行していました。1916年には主要駅停車の急行が設定され、それまでの急行は「最急行」と改称されましたが、同年8月には全急行が主要駅停車となり、「最急行」は廃止されました。

九州鉄道における最大急行

現在の鹿児島本線・長崎本線にあたる路線を運営していた九州鉄道は、1906年、国有化直前に門司～八代・長崎間を結ぶ「最大急行」を設定しました。山陽鉄道の最大急行と同様に、特別料金は徴収されませんでした。

最急行と最大急行、そして特急への進化

山陽鉄道、官設鉄道で運行された最急行と最大急行は、運行形態や料金体系に違いはあれど、いずれも速達性を重視した優等列車でした。これらの列車は、後の特急列車へと発展していく上で重要な役割を果たし、日本の鉄道の近代化に貢献したと言えます。最急行の運行は、各社の事情により時期や運行区間などが異なりましたが、日本の鉄道史において重要な足跡を残したことは間違いありません。現代の快適な高速鉄道の礎を築いた、日本の鉄道史における重要な一ページと言えるでしょう。 また、宮沢賢治の小説「氷河鼠の毛皮」にも「最大急行」が登場しており、当時の社会状況や最急行・最大急行のイメージを垣間見ることができます。

参考文献

長船友則『山陽鉄道物語―先駆的な営業施策を数多く導入した輝かしい足跡』、JTBパブリッシング、2008年
所澤秀樹『「快速」と「準急」はどっちが速い？　鉄道のオキテはややこしい』、光文社、2015年
* 交通新聞編集部『特急物語 : 東海道線の今昔』、交通協力会、1958年

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