月面軟着陸

『月面軟着陸 -SOFT LANDING ON THE MOON-』は、1990年5月21日にリリースされたピチカート・ファイヴの4作目のスタジオアルバムです。このアルバムは、田島貴男がオリジナル・ラヴに専念するため脱退したことを受け、既存の楽曲をリミックスするという形で制作されました。全曲がリアレンジされ、リミックスという手法で新たな息吹が吹き込まれています。

アルバムタイトルの候補として、当初は「POP/ART」という案もあったそうですが、「火星のグレイテスト・ヒッツ」や「ピチカート天狗」といったユニークなアイデアも浮上しました。最終的には、アル・クーパーの同名曲からタイトルが取られています。

収録曲にも様々なエピソードがあります。例えば、M-4「衛星中継」は、かつてメンバーだった佐々木麻美子へのインタビュー形式のトラックで、彼女の愛犬の鳴き声も収録されています。M-5「皆笑った」は、リハーサルを見た小西康陽がミュージカルのようだと言ったことがきっかけで、高浪慶太郎がミュージカル風にアレンジを施したバージョンです。M-6「指切り」は、アルバム『Bellissima!』のリハーサル中に生まれた大滝詠一のカバー曲ですが、作詞者の松本隆の意向で一時収録が見送られていました。M-9「セックス・マシーン」は、田島貴男が加入して最初のデモテープで、小西康陽が持ち込んだ楽曲です。M-14「惑星」は、高浪慶太郎による弦楽四重奏のアレンジが特徴的で、M-15「ワールド・スタンダード」ではスペインの詩人MR.YOROがスペイン語で詩を朗読しています。M-18「水泳〜ブーガルー・イン・アクション」では、ブーガルーアレンジの「水泳」と「アクション・ペインティング」をリアレンジした「ブーガルー・イン・アクション」がメドレーで収録されています。M-19「アロハ・オエ・ブルース」は、ドラマのために書かれた曲で、今回の収録にあたり歌詞が新たに書き下ろされました。

パッケージデザインも独特です。信藤三雄によれば、通常より小さいブックレットは、小西康陽が提案し、アメリカのタバコのカタログがきっかけになったそうです。また、カラーチャートのようなデザインは、小西康陽が持っていたポスターカードを元に、写真と組み合わせて制作されました。信藤三雄は、店頭での見え方に不安を感じていたそうですが、結果的にはユニークなデザインとして評価されました。

さらに、このアルバムのプロモーション用に、小西康陽と高浪慶太郎が各楽曲を解説したプロモカセット『月の裏側』も制作されました。初回盤は裏面の図版が見える透明トレーを使用していますが、後に白いトレーに変更されました。1995年の再発時には再び透明トレーが採用され、初回盤は三方背BOX仕様となりました。

このアルバムは、ピチカート・ファイヴの音楽的な実験精神と、ユニークなアイデアが詰まった作品であり、彼らの多様な音楽性を堪能できる一枚と言えるでしょう。リミックスという手法を通じて、既存の楽曲に新たな命を吹き込み、独特の世界観を作り上げています。

1995年11月1日には、ソニー時代のカタログ4タイトルが最新リマスタリング音源で再発されました。しかし、再発に際して奥田民生の参加した1曲がカットされたため、中古市場では再発前のオリジナル盤にプレミアがついている状況です。また、2004年にはピチカート・ファイヴ解散3周年を記念して、品番を改めて再発売されました。この際、収録曲は1曲カットされ全22曲となり、「新ベリッシマ」と「ワールド・スタンダード」は若干短く編集されました。

収録曲には、様々なバージョンが存在し、オリジナル盤と再発盤では曲数や収録時間に違いがあります。この点もこのアルバムの魅力の一つであり、ファンにとってはコレクションの楽しみとなっています。

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