有神的進化論

有神的進化論

有神的進化論（ゆうしんてきしんかろん、英語：Theistic evolution, Evolutionary theism）は、キリスト教における世界の創造に関する思想の一つです。この立場は、聖書の創世記に記される天地創造の記述を信仰の基盤としつつ、現代生物学における進化論の知見をも受け入れ、神が進化のプロセスを通して人間を含む多様な生物を創造したと理解します。つまり、神の創造的な働きを、生物が時間をかけて変化・多様化していく進化のメカニズムの中に見て取ろうとする試みと言えます。

概説

有神的進化論は、一般的に、聖書の創世記第1章や第2章に描かれている天地創造の記述を、文字通りの歴史的事実の正確な記録としてではなく、神と被造物の関係や創造の目的といった「神学的な真理」を伝えるための「寓喩」や「物語」として解釈する傾向にあります。これにより、聖書の記述と、地質学や生物学が示す地球や生命の歴史との間にある見かけ上の矛盾を解消し、信仰と科学の知見を両立させようとします。

この立場は、科学的な進化論を否定しない一方で、宇宙や生命の起源、そして進化のプロセス全体には、無作為な出来事だけでは説明できない、神による意図や導きが存在すると考えます。神は直接的な奇跡のみならず、自然法則（進化のメカニズムを含む）を通して創造の御業を行われた、と理解するのです。

しかし、この考え方に対しては、特に伝統的な創造論者（特に若い地球創造論を採る人々）から厳しい批判が向けられることがあります。彼らの主張では、もし神が進化というプロセスに委ねたのだとすれば、神の直接的な創造者としての役割が曖昧になり、神は創造の「始まり」（ビッグバン以前など）に関与したのみで、創造された世界そのものからは離れてしまったかのように見えてしまう、という懸念が表明されます。また、進化論の考え方を取り入れることは、聖書全体の記述の信頼性にも影響を与えうると指摘されることもあります。たとえば、聖書の科学的な記述に誤りや限界がある可能性を認めることから、「聖書全体が無誤である」とする全的霊感説に対し、「聖書には部分的、あるいは特定の目的から書かれた記述に誤りがあり得る」とする部分的霊感説のような考え方が導かれる場合がある、と論じられることがあります。

支持者や関連する動向

有神的進化論、あるいはそれに近い立場は、様々なキリスト教の伝統や個人に見られます。

カトリック教会：近年では、ビッグバンによる宇宙の始まりには創造者が必要であるとしつつも、科学的な仮説としての進化論を否定しない姿勢を示しています。教皇ピウス12世は人間の肉体の進化の可能性を否定せず、教皇ヨハネ・パウロ2世は進化論を「単なる仮説以上」と述べ、科学的な研究結果を受け入れる姿勢を示しました。ただし、人間の霊魂については神による直接的な創造を必要とすると考えられています。
プロテスタント教会の一部：日本のプロテスタント教会の一部にも、有神的進化論を支持する立場が見られます。例えば、日本基督教団の牧師の中には、聖書の部分的霊感説とともに有神的進化論を支持する者が少なくないという指摘があります。
内村鑑三：日本のキリスト教思想家である内村鑑三も、「神は進化の順序法則に従ひて萬物を造り完成し給ふ」と述べ、進化論を神の創造の手段として積極的に肯定しており、その思想は有神的進化論に近いものと解釈できます。

関連する論点

有神的進化論は、聖書の創世記における「日」の解釈問題とも深く関連しています。伝統的な創造論ではこの「日」を文字通りの24時間と解釈することが多いのに対し、有神的進化論を採る人々は、この「日」を地質学的な長い時代を象徴するもの（日=時代説）と見なしたり、創造のプロセスを神学的に区分したものであり時間とは直接関係しないと捉えたりするなど、様々な解釈を行います。これらの解釈は、聖書の記述と科学的なタイムスケールとの整合性を図るための試みです。

有神的進化論は、信仰と科学を対立するものとしてではなく、それぞれが異なる側面から世界の真理を探求する営みであると捉え、両者の調和を目指す立場と言えます。しかし、その具体的な神の関与の仕方や、聖書解釈の度合いについては、支持者の間でも多様な見解が存在します。

参考文献

西満『天地創造の六日間　創世記一章の「日」に関する諸解釈』いのちのことば社
* ヘンリー・シーセン『組織神学』聖書図書刊行会

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