朝田隆

朝田隆（あさだ たかし）氏は、1955年2月3日に生まれた日本の精神科医です。特に認知症の予防および治療において先駆的な役割を果たしてきた第一人者として、国内外で広く認識されています。現在は、長年の功績が認められた筑波大学名誉教授の称号を持ちつつ、東京医科歯科大学の特任教授として教育・研究に携わり、さらに認知症専門の医療機関であるメモリークリニックお茶の水の院長として、臨床の最前線で患者と向き合っています。

朝田氏の専門家としての道のりは、1982年に東京医科歯科大学医学部を卒業したことから始まります。その後、研鑽を積み、1991年には山梨医科大学にて医学博士号を取得し、研究者としての基盤を固めました。臨床医としては、1995年から国立精神・神経医療研究センター武蔵野病院で精神科医長を務め、豊富な経験を積みました。

教育・研究分野におけるキャリアは、2001年に筑波大学臨床医学系精神医学の教授に就任したことで本格化します。ここでは、認知症に関する先進的な研究を推進し、多くの研究者や医療従事者を育成しました。その研究活動は日本の認知症学の発展に大きく貢献しました。2014年には活躍の場を広げ、東京医科歯科大学医学部附属病院の特任教授に就任しました。そして、2015年4月、長年の在籍期間中に多大な貢献をした筑波大学から名誉教授の称号が授与されました。これと同時に、自身の専門性を活かす形で、メモリークリニックお茶の水の院長に就任し、より実践的な認知症医療の提供に注力しています。

朝田氏の経歴の中でも、特に世間の注目を集めたのが、アルツハイマー病に関する大規模臨床研究であるJ-ADNI（Japanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative）研究への関与です。この研究は2007年にスタートし、朝田氏は研究における臨床情報や心理検査情報の収集、管理、解析を一元的に担う「臨床コア」の責任者に就任しました。この役職は、研究の信頼性を左右する検査手法や病気の診断基準を確立するという、極めて重要な責務を伴うものでした。同年12月には、杉下守弘氏も臨床コアの責任者として加わり、朝田氏と共に研究データの管理責任を負うこととなりました。

しかし、J-ADNI研究のデータ管理体制を巡っては、後に問題が表面化します。2013年12月、朝日新聞の記者が杉下氏への取材を開始したことに続き、2014年1月5日には朝田氏も記者の取材を受けました。そして、2014年1月10日、朝日新聞は、朝田氏が研究データに「悪意のある改ざん」があった可能性を示唆したと報じ、大きな波紋を呼びました。

報道当日の1月10日、朝田氏はJ-ADNI研究の臨床コア責任者として、一連の状況について説明を行いました。研究グループ内で検査方法や診断基準の統一が不十分だったため、研究の進捗が遅れ、成果発表が大幅に遅延している現状を認めました。また、国際的にも注目される日本の認知症研究分野でこのような事態が起きたことを深刻に受け止めていると述べ、研究協力者である患者のためにも正確なデータを公表する必要性を強調しました。その解決策として、外部の専門家を含む第三者機関を設立し、患者個々のデータを詳細に検証すべきであるとの考えを提唱しました。

ところが、翌日の2014年1月11日、朝田氏は前日に自身が提唱した第三者機関による正式な調査結果を待つことなく、「データの一部に後から書き換えるなどの不適切な処理があった」と発表し、改めてデータの「改ざん」の可能性について言及しました。この一連の騒動は、日本の医学研究におけるデータインテグリティ（データの信頼性）と倫理規範に関する広範な議論を巻き起こすこととなりました。

この問題の責任を取る形で、朝田氏は2014年中に筑波大学教授を辞任しました。その後、J-ADNI研究のデータ問題に関しては、政府による調査が行われ、2015年3月13日には閣議決定された政府答弁書において、研究データにおける故意の改ざんは認められないとの見解が示されました。

J-ADNI研究での騒動を経て、朝田氏は現在も精神科医としての活動を精力的に続けています。認知症治療の専門家として、メモリークリニックお茶の水での日々の診療を通じて多くの患者を診るとともに、東京医科歯科大学の特任教授として次世代の研究者や医療従事者の育成にも貢献しています。そのキャリアは、認知症という現代社会の課題に深く関わる研究者・臨床医としての貢献に加え、大規模臨床研究におけるデータ管理の難しさや透明性の重要性といった、医学研究が直面する課題をも示唆するものです。

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