木村三郎 (益子焼の陶工)

木村 三郎（きむら さぶろう）

木村三郎は、1932年（昭和7年）10月10日に栃木県芳賀郡益子町に生まれ、2020年（令和2年）11月22日に88歳でその生涯を閉じた益子焼の陶工です。彼の窯元は「木村三郎窯」として知られていました。

彼の陶工としての技量は特に轆轤成形において際立っており、その素早く正確な手捌きは、見た者を驚嘆させました。「手仕事フォーラム」の主宰であった久野恵一氏は、陶芸メッセ・益子の渡り廊下に展示されていた、伝統的な釉薬の解説に用いられていた六つの大きな甕を目にし、その見事な轆轤仕事に衝撃を受け、作り手である木村三郎氏を見出しました。その技は「魔法の手」あるいは「神技」とまで称されるほどでした。

生い立ちと陶工への道

1947年、15歳で地元の益子製陶所に入社し、陶工としての道を歩み始めました。当時の益子焼窯元の一部は分業制をとっておらず、木村氏は窯元の四人の先輩職人の仕事ぶりを間近で見ながら、土練りから釉薬掛けに至るまでの全ての工程を見様見真似で習得しました。作陶した作品は、同僚たちの作品と共に幅三間、12〜13室を有する大きな登り窯で焼成されました。

この頃の益子には、熟練した轆轤挽きの職人が多数おり、陶器製品を効率よく大量に生産するための技術が求められ、互いに技を競い合っていました。当時は民藝運動が盛んな時期であり、彼らが作る日用雑器は非常によく売れたといいます。益子には民芸品を制作する窯元が20軒以上あり、全国各地に出荷されていました。

しかし、民藝ブームが落ち着き、民芸品の需要が減少すると、益子の特産品であった行平や土鍋、茶壺といった「蓋もの」を轆轤で挽く陶工が次第に減少し、1999年頃には蓋もののほとんどが鋳型で制作されるようになっていました。

経歴と独立

益子焼が不況を迎える中、1959年には茨城県日立市にあった日立製作所の施設内の「大甕陶苑」に入社し、社員陶工として勤務しました。ここでは社内での使用や贈答用の陶器を制作し、この茨城での期間中に県展で三度入選を果たしています。

その後、1973年に益子へ帰郷し、自身の登り窯を築いて独立しました。1982年には国が定めた益子焼伝統工芸士に認定され、その技術と功績が公的に認められました。また、伝統的工芸品産業の振興における顕著な功績が評価され、1996年には伝統的工芸品産業功労者として関東通商産業局長表彰を受けています。

高度な轆轤技術と仕事への姿勢

木村氏は、日用的な陶製食器である皿や擂り鉢といった「数もの」の注文を休む間もなく轆轤でこなしながら、益子焼の伝統的な仕事や手法に忠実に作品を作り続けました。特に、轆轤での成形が難しいとされる土瓶や徳利、急須などの「袋物」や、行平、土鍋、茶壺などの「蓋もの」、さらには大型の陶器である「大物」の作陶を得意としていました。轆轤による高度な技術を必要とする「蓋もの」の作陶技法を継承する第一人者となっていきました。

益子焼窯元共販センターの理事も務め、皆川マス氏の孫娘である皆川ヒロ氏による陶画「山水土瓶」の轆轠挽きも手掛けており、その端正な形は高く評価されていました。また、共販センターからの「完全な手仕事による」困難な轆轤仕事の注文も、「轆轤で成形できるものならなんでも」「鋳型より手で挽いた方が早い」と事も無げに引き受け、一手に担いました。濱田庄司氏の作品を参考に、写真を見ながら作陶することもあったといいます。

久野恵一との出会いと評価

木村氏が久野恵一氏に見出されたのは平成に入ってからのことでした。久野氏は民藝協会の仕事で「日本の手仕事」を調査する過程で益子を訪れました。特に、陶芸メッセ・益子で目にした、鋳型ではない轆轤成形の六つの味噌甕の精度の高さに衝撃を受け、その作り手を探し求めました。その過程で紹介されたのが、既に60代後半であった木村三郎氏でした。

木村氏の素早く正確な轆轤捌きを目の当たりにした久野氏や、久野氏が撮影した木村氏の轆轤動画を観た人々は、彼の技を「魔法の手」「魔法」「神技」と称賛しました。久野氏が見出した時点で、益子には木村氏のような完璧な轆轤職人は少なくなっていたとも言われています。

木村氏は高い技術を持ちながらも決して威張ることはなく、常に悠然として動じない、懐の深い人物でした。全身から自信が溢れ出ていましたが、同時に周囲を気遣う優しさも持ち合わせており、東日本大震災で益子焼全体が甚大な被害を受けた際にも、「大したこと無いよ」と周囲を安心させるような言葉を口にしたといいます。

晩年は、久野恵一氏が主宰する「手仕事フォーラム」の、新規商品開発や研究、顕彰といった多岐にわたる活動に協力しました。

継承

2020年に木村氏が逝去した後、「木村三郎窯」は閉業しました。しかし、木村氏の長男である木村元氏と、陶芸家であるその妻・木村文子氏が「木村陶苑」として窯業を継承しています。また、孫にあたる晃基氏は、皆川マスの山水土瓶の復刻活動に取り組んでおり、颯太氏も自身の陶芸を模索する陶芸家としての道を歩み始めています。

木村三郎氏の残した高度な轆轤技術と、それを支えた誠実な仕事への姿勢は、益子焼の伝統の中で今もなお受け継がれています。

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