末次火事

末次火事（すえつぐかじ）

「末次火事」は、元禄11年（1698年）に日本の主要な国際貿易港であった長崎の街を襲った大規模な火災です。この災害は、当時の元号をとって「元禄大火」や、出火元の名を冠して「末次の大火」とも呼ばれています。

火災の発生と被害の拡大

火災が発生したのは、元禄11年（1698年）4月23日の未明のことです。長崎の後興善町に住んでいた乙名（おとな）、末次七郎兵衛の邸宅から火の手が上がりました。当時の長崎は木造家屋が密集しており、火災が発生しやすい環境でしたが、この時はさらに不幸にも強い風が吹いていました。そのため、一度上がった炎は瞬く間に周囲へと燃え広がり、制御不能な大火へと発展しました。火は消火活動にもかかわらず、同日午後4時頃にようやく鎮火するまで、およそ12時間にわたって燃え盛りました。

この火災によって、長崎市街は広範囲にわたる甚大な被害を受けました。火は後興善町の周辺22の町に延焼し、多数の建物が失われました。具体的には、家屋2044軒が焼失し、33棟の土蔵も灰燼に帰しました。また、延焼による焼失とは別に、火の回りを食い止めるために107軒の家屋が取り壊されています。

人命にも大きな被害が出ました。被災者総数は9832人に上り、この火災で命を落とした方は男性7人、女性1人の合計8人でした。当時の記録には、人間の被害だけでなく、家畜やペットへの影響も記されており、犬121匹、猫297匹が焼死したことも記録に残されています。

火災後の対応と長崎の変遷

火災が発生した後、被災した人々を支援するための緊急措置が講じられました。救援物資として、まず2000俵の米が放出され、生活再建への一助とされました。

この火災は、長崎の貿易拠点としての機能にも大きな影響を与えました。当時、長崎に入港する唐船（中国からの貿易船）が持ち込んだ品々は、市内の各地にある土蔵に保管されていました。しかし、末次火事によって、これらの唐船の荷物を収納していた土蔵18棟が全て焼失するという被害が出てしまったのです。

唐船貿易を安定的に継続させるため、抜本的な対策が必要となりました。その結果、火災から数年後の元禄15年（1702年）に、浜町海岸沿いの海を埋め立てて新たな土地が造られました。そして、その造成された人工島の上に、唐船専用の新しい貨物倉庫群が建設されました。この施設は「新地蔵所」と呼ばれ、以後、長崎の対中国貿易における重要な物流拠点となりました。

現在、この「新地蔵所」がかつて存在した場所は「新地町」として知られています。そして、この新地町一帯は、国際色豊かな長崎のシンボルである「長崎新地中華街」として発展しています。末次火事は、長崎に大きな爪痕を残した災害でありながら、その後の街の形、特に新地エリアの発展に繋がる歴史的な転換点の一つだったと言えるでしょう。

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